「安倍首相が本日11時半に靖国神社を参拝する」という電話を受けたのは、2013年12月26日午前10時30分頃だ。可能性を指摘する報道は事前にあったものの、実際に安倍首相が靖国神社に参拝するとは思っていなかった。
「日本右傾化」というストーリーの中で
筆者が北京の日本大使館で防衛駐在官として勤務していた2005年、当時の小泉首相の靖国神社参拝は、やはり中国の反日感情を爆発させ、大規模なデモが生起した。日本食レストランを破壊しながら行進し、1万人で日本大使館を囲んだのだ。1万人に囲まれると、大変な圧迫感を覚える。中国にとって、日本の首相による靖国神社参拝が、「日本が歴史を歪曲するもの」であるという意味は変わらない。それでも当時の小泉首相の靖国神社参拝と、今回の安倍首相の靖国神社参拝には、やはり大きな違いがある。
実際には、首相の靖国神社参拝だけで、対日抗議活動が激烈になる訳ではない。当時も、日本の国連安保理入りの話が重なって、強い日本への抗議となったのだ。それでも、小泉首相の靖国神社参拝は、他の歴史認識にかかわる要素に結び付けられることはなかった。
一方で、今回の安倍首相の靖国参拝は、中国が言う「日本右傾化」のストーリーの中に位置付けられている。単発の事象ではなくなっているのだ。2012年9月の日本政府による尖閣諸島購入以降、日本の政治家の発言、安倍首相の自衛隊でのパフォーマンス、国会議員の靖国神社大量参拝、無人機撃墜検討、果ては「いずも」の進水まで、日本右傾化・軍国主義化の証とされてきた。
中国には、人民解放軍の一部を含め、「対日開戦やむなし」と主張するグループがいる。日本は、こうした対日強硬派を利する材料を与え、彼らに「日本右傾化・軍国主義化」のストーリーを作り上げる手伝いをしてしまったのかも知れない。日中双方で、関係改善を主張する声が小さくなっているように感じる。強硬な主張を展開する人も、戦争になるとは考えていないかも知れない。しかし、勢いの良い主張に他の声がかき消され、理性的な議論ができなくなって、過去の戦争は止められなかった。