もう一つの理由は、自民党政権に変わったものの、金持ちを国内につなぎ止めようという政策が一向に出て来ないことだという。安倍晋三首相は2013年9月25日にニューヨーク証券取引所で行った演説で、「私は日本を、アメリカのようにベンチャー精神のあふれる『起業大国』にしていきたいと考えています」と語った。そのためにアベノミクスで規制改革などを思い切って進めるので、日本へ投資して欲しいと訴えたのである。
日本では最近、起業して株式を上場し、その売却益を得た創業者が高額所得者になるケースが増えている。安倍首相の演説に起業家は奮い立ったのかと思いきや、見方は厳しい。
「所得税率は50%を超え、会社からの配当にも高い税率がかかる。これでは起業家はたまらない。この国の政策は起業家絶滅政策ではないのか」
そう、ベンチャー企業の創業者の一人は語る。首相の「思い」と政策がミスマッチを起こしているというのだ。
政権交代直後に自民党政権がまとめた13年度税制改正大綱では、所得税の最高税率を40%から45%に引き上げることを決めた。これが15年1月から実施される。日本の最高税率は1999年にそれまでの50%から37%に引き下げられたのだが、07年に40%に引き上げられていた。これを一気に45%にするというのである。
所得には国税のほか、復興特別所得税(税額の2.1%)と地方税の個人住民税(一律10%)が課される。15年からの最高税率は55.945%になる。
対象は年収が4000万円以上の人である。金持ちから税金をたくさん取るのは当然だと国民の多くは溜飲を下げるだろう。だが、実はこんなバカな政策はない。もともと高額所得者は多額の税金を納めている。税率を上げれば海外への逃避を促すことになる。税率を上げても、高額所得者が海外に出れば、税収は逆に減ってしまうのだ。