税収を増やすなら金持ちイジメは逆効果
今や世界の国々は、どうやって高額所得者を自国に呼び込むかに知恵を絞っている。方策の一つは税率を低く抑えることだ。税率を低くしても高額所得者が多くなれば、税収は増える。
スイスは26ある州・準州ごとに所得税率が違う。国税・自治体税・教会税を含めた税率は、最低のツーク州で所得が20万スイスフラン(約2000万円)の場合、10.51%。首都ベルンの20.99%の約半分だ。ツーク州には国内外の高額所得者が移住し、00年から12年の間に居住者人口が17.3%も増加した。しかも、居住者の25%が外国人になっている。富裕層獲得を狙って州の間で、税率競争をしているのだ。
こうした税率競争は、欧州では、国と国の間でも起きている。英国は13年4月にそれまで50%だった最高税率(地方税はなし)を45%に引き下げた。一方で、ドーバー海峡をはさんだフランスは14年から「富裕税」を課す方針だ。オランド大統領の目玉政策だったが、フランス国内で反対が巻き起こっている。当初は100万ユーロ(約1億4000万円)超の所得に対して75%の税率を課す方針だったが、憲法違反との判断が下り、高額の給与を支払った企業から徴税することとなった。社会保険料を含めた実効税率は約75%になるという。
これに対して、サッカーのプロクラブがストライキを行う構えを見せたり、有名俳優がフランス国籍を放棄してロシア国籍を取得したりする動きも出ている。かつてフランス革命が起きた時代とは異なり、富裕層といっても既得権を独占する王侯貴族や資本家ではなくなったということだろう。税率の変更は富裕層に国を見限らせることになりかねないのである。
米国の所得税の最高税率は39.6%。これに地方税が加わる。日本の財務省の資料によると、ニューヨーク市の場合は50.10%だ。これまで日米英の最高税率は50%でほぼ横並びで、財務省はこれを、日本の最高税率は妥当だという論拠に使ってきた。
ところが、最高税率が引き上げられる15年からは日本が米英を大きく上回る格好になる。日本の富裕層が米国に移住しようとする理由はここにもあるのだ。財務省は、今度はフランスの富裕税でも持ち出して最高税率引き上げの妥当性を強調するのだろうか。
金持ちイジメは止みそうにない。政府は昨年12月24日、14年度税制改正大綱を閣議決定した。13年から給与所得控除に上限が設けられ、給与所得1500万円以上は245万円で打ち切りとなっていたが、大綱では、さらに上限を厳しくする。16年分の所得からは給与所得1200万円で控除額230万円が上限となり、17年分からは1000万円で220万円が上限となる。高額所得者からより多くの税金を取る、という姿勢が続いているのだ。
国債など国の借金が1000兆円を超えた日本。本気で税収を増やしたいのなら、世界中から金持ちが集まってくる国にすることだろう。
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