翌日、いづみは玲央が務めるホストクラブにやってくる。高額のシャンパンを次々頼む。支払いを心配する玲央に新聞紙に包んだ大金を出して「これで足りるかい」と。
いづみがかつて好きだったひとに、玲央が似ているという告白もなされる。
翌朝、いづみは玲央に「朝ご飯を食べにいこう。ちゃんぽんを」と。執事が運転するクルマに乗って、飛行機で着いたのは長崎の中華街。ちゃんぽんを食べたあと、端島をみる観光船に誘うのだった。いずみが育った島だというのである。
現代と重なる1955年の軍艦島
1955年の端島――玲央を演じる神木隆之介の一人二役の荒木鉄平は、炭鉱夫である父・一平(國村隼)と兄・進平(斎藤工)の援助によって、長崎大学を卒業して島に戻ってくる。島外の企業で働いてもらいたかった父・一平の願いもままならず、鉄平(神木)は端島の外勤つまり勤務の手配や総務などを務める“なんでも屋”と自嘲する、仕事に就職した。
長崎大学の同級生で島出身の百合子(土屋太鳳)と、端島に就職した古賀賢将(清水尋也)も島に戻ってくる。土屋太鳳の堂々たる芯が強く、美しいたたずまいは本作のひとつの大きな魅力である。百合子が2018年のいづみなのかどうか。ドラマの伏線になっている。
Netflixの「今際の国のアリス」のseason1と2のヒロインでアクションの演技を手がけたのが、彼女の女優人生の転機になった。Season3が近く公開される。アクションで引き締まった身体と表情は、本作にふさわしい。
島の職員クラブの女給の仕事を求めて、福岡の駐留軍でジャズなどを歌っていた草笛リナ(池田エライザ)がやってくる。鉱山の得意先の社長の接待の折に、その社長がリナにちょっかいを出そうとしてコップの水を顔面にかけたことから、リナは首になる。
鉄平(神木)は、本土に帰ろうとしているリナ(池田)に声をかける。
「人生変えたくないか? ここから人生変えたくないか?」
このセリフは実は、路傍で酔いつぶれていたホストの玲央(神木の一人二役)に対して、いずみ(宮本信子)がかけたのと同じだった。
野木作品の魅力のひとつに、こうした静謐(せいひつ)なセリフの数々が心を打つのである。