2024年11月21日(木)

World Energy Watch

2024年11月13日

 17年のトランプ政権が始まった時に、マスクはトランプ政権に助言する企業人の組織に呼ばれ参加した。しかし、半年後にトランプ政権が温暖化に関する国際協力であるパリ協定を離脱する意向を明らかにした際、「パリ協定を離脱するのであれば、俺はトランプ政権への助言から離脱する」とタンカを切り2つの組織を離れた。

 当時EV販売の大きな謳い文句は温暖化対策だった。トランプは温暖化懐疑論、マスクは温暖化しているとの立場だった。いま温暖化問題はEV購入のそれほど大きな動機ではないだろう。

 加えて、マスクがやはりCEOを務める宇宙企業、スペースXは政府から支援を受けている。政権に近づくメリットは大きい。マスクはビジネスに役立つかどうかの視点で判断しているのだろう。だが、今後の展開次第では17年当時と同じくケンカ別れするかもしれない。

 もう一つ、当時とマスクの立場が異なることがある。フォーブスによると、マスクは世界一の資産家で、その額は3040億ドル(約45兆円)だ。資産の内訳の主なものは、テスラ株が約1200億ドル(オプション権を含まず)、スペースX株が900億ドルだ。

 17年当時との比較では、株価と資産価値は大きく上昇した。トランプが勝利したのでテスラ株は3日間で約30%上昇した。マスクの得た額は、約300憶ドルだ。

 CNNは、マスクがトランプ支援に投じたとされる1億1900万ドルと資産上昇額を比較すると、とんでもなく効率が良い投資だと皮肉っぽく伝えている。

予見性のない市場で投資はできるのか

 米国では既に中国製EVには100%の関税が課せられ、中国製EVは税額控除の対象外になっている。EUも中国製EVに最大45%の関税を課す。

 テスラの主力工場の一つは中国上海だ。中国から米国あるいは欧州への輸出があれば競争力が損なわれるが、その可能性はないのだろうか。

 テスラの工場別生産能力と販売台数を比較すると(図-4)、中国から米国、欧州に輸出される可能性は小さく当面影響を受けることはなさそうだ。ただし、欧州ベルリン工場はタイプYしか製造しておらず、他の車種については中国あるいは米国から輸出する必要がある。

 マスクは当然その計算もしたうえで、トランプを支援していると考えられるが、メキシコへの投資には躊躇している。

 自動車のように、大きな設備投資を必要とする産業では数年先までの市場が予見できなければ投資は困難だ。間違えるとメーカーは人員整理まで追い込まれる。最近もドイツと日本で判断を間違ったケースが表面化した。

 トランプの登場により当面市場の先行きは見えなくなった。トランプに近いマスクですら投資に踏み切れない時代だ。

 自動車メーカーはここで読み間違いをしないように、米国市場については慎重な行動が当面必要になってきたのではないか。

間違いだらけの電力問題
山本隆三 (著) ¥1,650 税込

                                   

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