シェールガスの手法を転用か
石油・天然ガス業界はトランプの選挙キャンペーンを支えた。バイデン政権は、カナダからパイプラインで石油を輸送するキーストーンXLプロジェクトの認可を取り消し、液化天然ガス(LNG)の新規輸出プロジェクトを凍結するなど、石油・天然ガス業界には冷淡な存在だった。
トランプ政権になれば、生産も輸出もより容易になるはずだ。「掘って、掘って、掘りまくれ」との立場なのだから。掘る中にはシェールガスの開発に利用されるフラッキング(水圧爆砕)手法も含まれる。
縦に掘りそれからシェール層に沿って水平に曲げて掘り、水と化学薬品を流し込み圧力をかけ固いシェール層にひび割れを作り、天然ガスあるいは原油を取り出す技術だ(【解説】なぜシェール革命は米国で起こったのか エネルギー基礎知識⑤)。
この技術は固いシェール層に閉じ込められ染み出すことがなかった天然ガスと原油を商業的に取り出し、米国を世界一の天然ガスと原油生産国に押し上げた。
試錐孔(ドリリング)を途中から水平に掘り、フラッキング技術を利用した地熱開発の新技術を、米国エネルギー省(DOE)は開発中だ。
今の地熱発電は、雨水が浸透し地下に貯留しマグマにより熱せられた高温・高圧の地下水を地熱貯留層から取り出し、その中の蒸気を利用しタービンを回し発電する。熱水は戻されるし、雨水も利用されるので、再生可能だ。
しかし、地熱発電にはリスクが伴う。DOEのレポート(Pathways to Commercial Liftoff: Next-Generation Geothermal Power)によると、米国では掘削の内20%は地熱貯留槽を見つけられずに終わる。掘削の費用は全事業費の40%以上とされ、この失敗は致命的だ。さらに、予想した発電量を得られないケースもあり、投資家、融資機関にとっては大きなリスクになる。
環境影響評価をはじめ、多くの許可も必要となり、事業開始までに要する期間も7年から10年とされる。
このリスクゆえに、地熱プロジェクトでは高い収益率が要求され、米国では過去10年間に構想された地熱プロジェクトの内半数以上が放棄されている。
DOEが開発中の次世代型地熱発電システムの一つEGS(地熱増産システム)では、地熱貯留槽より深くに位置する高温だが亀裂のない岩盤に水平掘削後、水を高圧で流し込み亀裂を作り、亀裂内にできた熱水を取り出す。シェールガス・オイル生産に使用される技術の転用だ。
既存技術の転用であり、リスクも減少する。開発段階でありコスト引き下げが課題だが、DOEは早ければ30年に実用化するとみている。
採掘業者CEOがエネルギー長官に
次期トランプ政権でエネルギー省長官に指名されたのは、リバティーエナジーCEOのクリス・ライトだ。リバティーエネジーはシェールガス・オイル採掘に利用されるフラッキングでは全米2位の規模だ。
トランプ当選を支えたシェール生産で活躍する掘削業者にとって、DOEが進める新規地熱事業は次の大きなビジネスチャンスに違いない。
脱炭素を進める民主党議員にとっても地熱の開発が進むことが望ましい。両党の思惑が一致したので、11月に米下院では地熱開発を促進する2法案が共和党議員と一部の民主党議員の賛成で通過した。これから上院で審議される。
一つは、一部の地熱プロジェクトについて許認可を簡素化するヒーツ法。もう一つは内務省にさらに地熱開発用の土地のリースを要請するクリーン法だ。トランプ次期大統領の下で地熱推進の勢いは加速しそうだ。
日本の状況にも影響を与える。石破首相が米国の地熱を取り巻く状況を知ったうえで、地熱推しの発言をしたとは思えない。エネルギー政策に関する全般的な知識がない中で、思い付き程度に発言したとみるのが正解だろう。
しかし、瓢箪から駒か、トランプ政権になれば米国では地熱の技術開発が一段と進みそうだ。日本にもEGSに係る企業がある。これから地熱発電の可能性が広がり、新規開発にもつながる。データーセンターとの組み合わせもありえる。