妨害を受けた各国は直ちに中国政府に抗議しているが、中国外務省は「国連安保理決議の履行を装い、意図的に中国の領空に接近し、中国の海上および航空の安全を危険にさらしている」などと反論している。
さらに中国は11月、ロシアとの共同飛行を東シナ海から日本海で実施、両国軍とも核搭載可能な戦略爆撃機や戦闘機など10機を飛行させている。中露の共同飛行は19年以降9回目で、その数日後には、ロシア海軍のキロ級潜水艦が沖縄・与那国島と西表島間の接続水域を浮上したまま航行しているのが確認された。
防衛省によると、この海域でロシアの潜水艦の活動が確認されるのは初めてで、「南シナ海から日本海に向かう途中だが、航行する必要のない海域であり、航行していることを見せつけることで、台湾海峡で『航行の自由作戦』を実施する国々への警告だ」(元自衛隊幹部)と指摘。多国間協力に対抗するためにロシアが中国に協力した行動だったようだ。
国連軍地位協定に基づく多国間協力で中国を抑止せよ
妨害や威嚇が繰り返されるということは、それだけ中国が嫌がっているという証でもある。参加するオランダ軍は「インド太平洋航路の安全確保は欧州にとって重要な課題だ」と主張しており、日本にとっても国連軍地位協定に基づき、多くの同志国が東シナ海や台湾海峡に艦艇や航空機を展開させることは、最大脅威である中国の行動に目を光らせる最良の手段と言ってもいい。この多国間協力を継続させることこそが、日本の安全、そしてこの地域の安定に直結すると確信する。
石破茂首相は自らのアイデアという“アジア版NATO”の可能性について、自民党内で検討させる方針のようだが、既にこれほど有益な多国間の枠組みがあり、数年前から各国が自発的に連携協力し、地域の安定に注力している現実を直視してもらいたい。その上で国民に対し、日米を中心とする現下の活動の有用性を説明し、理解を得る必要がある。
突如出現した不安定要因
だがここにきて大きな不安定要素が出現してしまった。親北勢力に対峙するために非常戒厳を宣言した韓国・尹大統領に対する弾劾訴追案の可決である。昨年夏以降、日米韓の首脳による話し合いの枠組みは定例化し、対中、対北に対する安保協力は欠かせない状況であるだけに、予断を許さない状況に陥ってしまった。
昨年8月の光復節で、尹大統領は「日本が国連軍司令部に提供する7カ所の後方基地は、北朝鮮の韓国侵攻を遮断する最大の抑止要因になっています」と演説し、韓国首脳として初めて韓国防衛のために果たしている日本の役割に謝意を述べた。それだけに今回、反大統領派が提出した最初の弾劾訴追案は「北朝鮮と中国、ロシアを敵対視し、日本中心の奇妙な外交政策にこだわり(中略)北東アジアで孤立を招き、戦争の危機を誘発させた」という文面には愕然とせざるを得ない。
石破首相は12月5日、衆議院予算委員会で「日韓関係の改善を韓国の国益だという信念で進めてきた大統領の努力を損なうようなことがあってはならない」と訴えた。
だが今後、韓国で中国に傾斜し、北朝鮮との融和を唱える政権が誕生すれば、米韓同盟は揺らぎ、朝鮮国連軍およびその地位協定も存在が危ぶまれるかもしれない。日米韓の枠組みを後戻りさせないためにも、政府は多国間の枠組みで東アジアの安定を目指す活動が展開されていることの重要性を訴えなければならない。