安全保障は米国に委ねる
そんな時代はもう終わった
大統領選で明らかになったように、米国民にとってはウクライナの戦況よりも明日の自分の生活の方が重要である。米国が「世界の警察官」としての指導力を発揮した第二次世界大戦以降は例外的な状況であり、米国は本来の姿(アメリカ・ファースト)に戻ることになる。「安全保障は米国に委ねる」という甘い蜜をもはや吸うことはできなくなり、米国の同盟国がさらなる自助努力を求められる時代が幕を開ける。
石破茂首相はアジア版NATOの創設や日米地位協定の見直しを提起したが、欧州のNATOすら好まず、同盟に公平な負担を求めるトランプ氏には全く相手にされないだろう。24年4月に自民党副総裁(当時)の麻生太郎氏と面会したトランプ氏は、日本の防衛予算の増額や反撃能力の導入の方針を歓迎すると発言した。だが、防衛予算が増額されても、現在は円安が進み、当初の予算規模では想定していた防衛装備品を購入できないという問題が生じている。これでは、いつトランプ氏から自助努力が足りないと批判されてもおかしくない。円安を踏まえ、装備品の購入計画を早急に考え直す必要がある。
また、米国は日本に対し、能動的サイバー防御(ACD)の導入や機微な情報の保全、日米の防衛産業間の連携などを求めている。特に、米国の造船産業の衰退は深刻で、1年に2隻の原子力潜水艦をつくる必要があるところ、現状の能力では1隻しか製造できず、同盟国としても看過できない状況にある。米国の即応体制を維持強化するために、防衛産業レベルで貢献することが重要であり、米国の造船業界に日本企業からの投資を促すことが必要であろう。自らの自助努力をしつつ、米国との協力関係を新たな段階に引き上げていくべきだ。
日本政府は昨年来、「もしトラ」前提でトランプ陣営の良識派とのネットワークを深化させてきたが、トランプ政権に入るであろうMAGA派の人材と深い話ができるようなネットワークは築けていない。日米同盟を強化していくうえで、人的ネットワークの構築や立て直しが急務である。