2024年11月23日(土)

ベストセラーで読むアメリカ

2009年5月13日

 本書の主人公のカイル・マッカヴォイは名門イエール大学のロースクールを卒業し、在野で恵まれない人々のために働くつもりが、学生時代のスキャンダルにつけこまれ、謎の男に脅されて無理やりニューヨークの巨大法律事務所に就職させられる。その法律事務所Scully & Pershingは、国防機密が絡む軍事産業の訴訟を担当しており、謎の男はカイルに訴訟に関する機密情報を盗み出すことを強要する。

 こうしてスリル満点で始まる本書では、何百人もの弁護士を抱える巨大法律事務所の内情を、カイル青年の批判的な視点を通じて描き出し興味深い。

巨大法律事務所の高給取りたち

 Scully & Pershing would hire 150 new associates worldwide, 100 in the New York office alone. They would pay them a nice salary that would amount to about $100 an hour, and the firm would in turn bill their well-heeled clients several times that rate for the associates’ work. (中略)Hundred-hour workweeks would not be uncommon. After two years, the associates would begin dropping out and looking for more sensible work. Half would be gone in four years. P71

 「スカリー&パーシングは全世界で新人のアソシエートを150人採用し、ニューヨーク事務所だけでも100人を採用する。事務所はアソシエートたちに時給で100ドルという高い給料を払うかわりに、アソシエートたちの働きに対し、1時間当たり何百ドルもの報酬を裕福なクライアントたちに請求する。(中略)1週間に100時間働くのはざらだ。2年たつと、もっとまともな仕事を求めて事務所を去るアソシエートが出始める。4年後には半分がいなくなる」

 90年代以降の経済の国際化に伴い、国境を越えた大型のM&Aなどが相次ぎ、巨額で複雑な企業法務の案件を扱う、メガファームとも呼ばれる巨大な法律事務所が現実の世界でも誕生した。日本の有力な大手法律事務所の多くも、アメリカ系などの巨大法律事務所の傘下に入っている。

 小説とはいえ、グリシャム自身も弁護士として活躍したこともあって、法曹界ともパイプも太く、メガファームの実態が真実味をもって伝わってくる。おまけに、景気が悪くなればなったで、生き残りをかけた企業の合併や、さらには会社の破たん処理など、メガファームの仕事は目白押しだ。それだけに、実際にも存在感を増しているメガファームは小説の舞台としても今の時代を象徴しうってつけだ。


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