2025年12月6日(土)

災害大国を生きる

2025年1月23日

 あらゆる方面で人手不足の被災地において、こうした個々人のニーズを丁寧に聴き取ることはもちろん容易ではない。ニーズの聴き取りは、多岐にわたり、多職種との連携も要する。

 そのため、ここで活躍するのは精神科医ではない。地域生活の支援の経験を有する人たちである。ケアマネジャー(介護支援専門員)の資格を持ち、常日頃より要介護者から生活ニーズの聴取を行っている人がこの役割を担うのに最も適任である。

 そして看護師なら訪問看護の、医師なら訪問診療の経験のある人が適任だろう。彼らは居住空間内における健康問題や健康維持に対して非常に詳しい。様々なケースを見ているので、居住空間内を見れば、その人の性格や背景なども見えてくることがあるという。彼らならではの視点を取り入れることで、より正確なニーズの把握につながるだろう。

災害弱者のためにこそケアマネジメントを

 特別支援教育が個別化を目指すように、ケアマネジメントの目指すところも個別性に応じた援助にある。災害弱者に対しては、このことはとりわけ重要である。

 災害弱者は、自身を支援する体制を独力で作り上げることができない。そこで、ケアマネジメントの出番となる。それは、ピッチの状況を見てパスを出すサッカーのボランチに似ている。状況・環境の変化をよく見て、喫緊のニーズと利用可能な社会資源を見極めて、連絡と調整を行い、問題解決へと導いていくのである。

 冒頭に記した政一のような場合、家庭が十分に機能しておらず、困ったときにSOSの出し方を誰も知らない。こういう状態を医療・福祉領域では、「援助希求性が低い」というが、要は、自ら声をあげないので、結果として援助の網の目からこぼれ落ちてしまうのである。この事態を防ぐには、手厚いケアマネジメントが欠かせない。

 ケアマネジメントは、個人に精通するとともに、パスを出す先の地域のケア資源にも精通している必要がある。被災地支援のボランティアとして初めて現地に入った人では、最初は、土地勘もなく、どこに何があるのかもわからないだろう。地域の社会資源を把握して、ケアマネジャーとして機能し始めるには、短期のボランティアではなく、数カ月、数年の期間をかけて、継続的な活動をすることが望ましい。

 被災者を知り、被災地を知り、地域社会の中の被災者の位置を知ることが、有効な援助につながる。これは決して簡単なことではない。だからこそ、こうした専門家たちに対する行政からのサポートが急がれる。

 『ひとりぼっちの政一』のような弱者を孤立させない。ひとりぼっちにさせない。そのためには、被災者ごとに異なるニーズを細やかに、そして継続的に聴き取ることが必要である。「こころのケア」より、「ケアマネジメント」こそが真に求められているといえる。

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Wedge 2025年2月号より
災害大国を生きる 積み残された日本の宿題
災害大国を生きる 積み残された日本の宿題

「こういう運命だったと思うしかない」輪島市町野町に住んでいた小池宏さん(70歳)は小誌の取材にこう答えた。1月の地震で自宅は全壊。9月の豪雨災害時は自宅周辺一帯が湖のようになったという。能登半島地震から1年。現地では今もなお、土砂崩れによって山肌が見えたままの箇所があったほか、瓦礫で塞がれた道路や倒壊した家屋も多数残っていた。日本は今年で発災から30年を迎える阪神・淡路大震災や東日本大震災など、これまで幾多の自然災害を経験し、様々な教訓を得てきた。にもかかわらず、被災地では「繰り返される光景」がある。能登の現在地を記録するとともに、本格的な人口減少時代を迎える中、災害大国・日本の震災復興に必要な視点、改善すべき方向性を提示したい。


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