一方、現場では約30万人の看護師が不足しているとされる。この問題の解決に向け、看護師と介護士専用のスポットワークサービス「クーラ」の運営を開始したのがフォニム(東京都新宿区)代表取締役社長の宍戸光達(ひろと)氏だ。
「今まで看護師はフルタイムで働く以外の選択肢がなく、いきなり復職や転職をすることにハードルを感じている人が多かった。そうした方々に、いかに自分に合う医療機関をみつけて就職してもらえるかをゴールにしている」
看護師などの有資格者がクーラに登録をすると、マッチングした医療機関で週1回4時間、最短1日から働ける。お試し転職として活用する場合は、2カ月ほど同じ医療機関で働き、お互いにマッチすればそこでの正式な採用にもつなげられる。
クーラではユーザーが看護師としての職務経歴やスキルを登録すると、ミスマッチが起きないよう双方の要望を聞いてすり合わせるなどし、運営会社が仲介役として手厚くサポートを行う。
「長く働ける医療機関を探すために利用しているユーザーが多く、医療機関もそんな人材を求めている。ユーザーは単発で働いて稼ぐことを主な目的としておらず、スキルを生かして患者の役に立ちたいという気持ちが強い。その思いが実現できるよう、双方の要望を密に聞いて慎重にマッチングしている」(同)
医療現場では専門性が求められ、人手不足を単に〝人で埋めるだけ〟というわけにはいかない。マッチングには手間と時間がかかるが、社会的価値の高い動きといえる。
働き手に新たな選択肢
事業者には課題も残る
スポットワークアプリの出現は、世の中にある「仕事の一部」を身近な存在にし、人が軽やかに働ける一つの選択肢を与えてくれた。そして、長期で働きたい人と雇いたい事業者のニーズがマッチすると正式な採用につながる動きも出てきたのは、双方にとって好ましい傾向だ。
ただ、スポット的かつ部分的に人を当て続ける経営手法には課題もある。経営学者で慶應義塾大学准教授の岩尾俊兵氏はこう語る。
「人手不足と同時にインフレの今は、相対的にお金の価値が下がり、人や物の価値が上がる『人優位』の時代だといえる。だからこそ今は、スポットワークが比較的健全な形で使われやすい。ただ、この状況が変わったとしても、生き残るのは、常に『人を大切にする』ことができる事業者だ。さらに言えば、業務の全体像を理解したうえで働く場合と、単なる部分を担い続けるだけでは、長い目で見て働く喜びにも違いが出てくるはずだ」
事業者は、スポットワーク全盛時代に安住してはならず、将来的に業務の一部を機械化するなどの省人化投資を行いつつ、長期的に人を育てて定着する仕組みづくりに取り組むべきだ。人口減少は確実に進む。スポットワークがあっても、人材の〝争奪戦〟はますます激化することは避けられない。そうした未来を見据え、人手不足の根本解決に向けた取り組みを怠ってはならない。