2025年12月5日(金)

世界の記述

2025年1月30日

家産政党としての二つの顔

 大統領選挙後、ルペン大統領誕生の期待があまりに強かったため、FN支持者の挫折感は大きかった。情緒的な極右勢力特有の傾向だ。マリーヌ自身の落胆も大きく、大統領選挙敗北後10日も公式舞台に出ず、「マリーヌは疲れている」とまで『フィガロ紙』は書いた。加えて、こうした政党にありがちな内紛が持ち上がった。

 その大きな衝撃はジャン・マリ・ルペンの側にいつもいた孫娘マレシャル(国民議会議員)が、大統領選挙直後に自分は6月の総選挙には出ないと早々と声明したことだった。彼女は「脱悪魔化」「普通の政党」路線に反対する急先鋒だった。

 もともと父ルペンの排外主義路線と、マリーヌ・ルペンの民主化積極路線は反対方向を向いていたが、それはルペン親子の微妙な関係と危ういバランスの上にかろうじて両立していた。最終的には支持者は「ルペン」という名前に一本化されて投票する。この党は依然同族経営の家産政党なのだ。

キングメーカーになったルペン

 22年の大統領選挙では、ルペンは前回以上に票を伸ばした。決選投票でも43%の得票率を得た。実はこの時には、エリック・ゼムールというルペン以上に強い排外主義を主張したジャーナリストがルペンにまさる支持率を得ていたこともあったが、最終的に第二回投票では彼らの支持者はルペンに投票した。極右勢力は幅を広げたのだ。ルペンの姪に当たるマリオン・マレシャル・ルペンは叔母のマリーヌ・ルペンの穏健化政策にもともと反発していたのでゼムール側についた。

 24年6月の欧州議会選挙では、EU統合反対派を多く含む右翼ポピュリストが躍進した。フランスでもルペンとルペンの姪マレシャル・マリオンが筆頭候補となった極右勢力「誇り高きフランス(中心はゼムール率いる「レコンキスタ(失地回復)」)」が4割の議席を得て最大勢力となった。

 大きく自勢力を後退させたマクロン大統領は与党勢力挽回のために心機一転、抜き打ち解散総選挙という「賭け」に出た。しかし7月の総選挙ではその大統領の目論見は大きく狂い、懸念された単独過半数には遠く及ばなかった。それに対し、RNは143議席を獲得、単独政党としての勢力を拡大し、左翼グループLFI・環境派・共産党・社会党他が結成した「新しい人民戦線(NFP)」、大統領グループに次いで議会内第三勢力となった。絶対過半数が存在しない三者鼎立の「宙づり議会」となり、そうした中でRNが議会の法案・予算決議などでキャスティングボートを握るようになった。

 冒頭に書いた首相指名に今やルペンの「承認」が不可欠だ。また政府の治安対策法に修正の条件付きで投票したり、マクロン政権批判の急先鋒のNEPの新政府不信任案に対してRNは是々非々の立場から協力を担保に圧力をかけたりしている。

「二つの顔」の均衡

マリーヌは共和主義を新たに強調し、女性の社会的役割と自立を強調した。マリーヌ党首の下での穏健路線が女性党員の増加に伴う党勢拡大に成功した理由であった。

 しかし同時に移民・外国人をスケープゴートとする「社会不安」の看板と完全に決別することはできない。マリーヌ自身はその方面での発言をできるだけ抑制することに努めたが、それはこの党が自身のアイデンティティーを維持しようとする限り背負わねばならない十字架でもある。マリーヌの穏健路線が日の当たる部分とすれば、この党の本質そのものはこの影の部分にある。

 実は影の部分を担い続けたのが、父ジャン・マリ・ルペンだった。父娘は表向き路線対立でいがみ合い、対立していたが、この負の部分の支持者を父が確保していた上に、マリーヌの穏健路線を支持する層が上乗せされてきたのが党勢拡大の実態だったと、もともと筆者はみていた。逆説的だが、党の路線が分立したことによって党勢は拡大したということになる。しかし娘が主役になり、父ルペンが死亡した今、「アウトサイダー」を標榜(ひょうぼう)し、RN本来の主張である排外主義を盾に極端な形で人心を籠絡する役割を誰が担えるのか。

 「同族経営」の家産政党であるRNはその点では結束力は強い。マリーヌを中心に、現在の党首、ジョルダン・バルデラはジャン・マリ・ルペンの長女カロリーヌの娘婿だ。マリオン・マレシャル・ルペンは次女ヤンの娘だ。ゼムールがルペン家族の外から極右排外主義の主張を標榜し、それを父ルペンの人望を継承するようにマレシャルが支持する。

 世代交代を通して「脱悪魔化」と「悪魔性の継承」の両翼、二つの顔をルペン家族が担っているのだ。RNの存続力はそこにある。

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