食品工場以外の石川県内の工場の被害状況については、筆者の知る限り、中央官庁や自治体による公表は行われていないが、報道情報や各メーカーのニュースリリースをもとに筆者が取りまとめた下の表8.をご覧頂きたい。
加賀地域に立地する工場の被害は比較的軽微であり、同地域の多くの工場は24年1月初旬まで、遅いところでも1月末までに生産を再開している。しかし、能登地域に立地する工場の中には、1月中に順次生産を再開した工場もみられるものの、全面再開までに3月末までかかった工場、5月半ばにようやく順次生産開始に漕ぎつけた工場、一旦3月末に生産再開したものの、工場の恒久的使用が困難と判断し閉鎖された工場等、被害はより大きかったことがうかがえる。
石川県の産業に与えた影響
次に、これまで見てきた産業への被害が、「①主として加賀地域で生産された工業製品が主として加賀地域に配送される貨物流動」、「②加賀地域と能登地域の両方で収穫された農林産物が主として加賀地域に配送される貨物流動」、「③主としての能登地域で水揚げされた水産物が生鮮と加工食品原料の両方として主として加賀地域に配送される貨物流動」という石川県の物流のメインストリームに及ぼした影響を見ていきたい。
本来であれば、表2.で示した卸売業・小売業の年間商品販売額、工業製造品の出荷額、表3で示した農業産出額等の変化を用いて、2024年と例年の数値を比較することが適切であると思われるが、極めて残念ながら、この原稿を執筆中の2025年1月29日現在、これらの2024年の数値は公表されていない。
そこで、これらの数値に代わる情報を探した結果みつかったのが、以下の図1.のグラフで示した情報である。
このグラフは、石川県の主要漁港10港で水揚げされた主要95魚種の18年から24年までの漁獲量推移を示したものである。ご覧の通り、上の表6.で示した能登半島地震による漁業被害の影響が24年の漁獲量に如実に現れており、同年の数値には12月分が含まれていないことを考えても、激減していることは明らかである。
目敏い読者の中には、19年にも漁獲量が大きく減少していることに気づかれた方々がおられるかも知れない。しかし、よくよく見ると、この年の漁獲量減少の主たる原因が、このグラフでは茶色で示したマイワシの歴史的な漁獲量の激減であることが分かる。それに対して、24年の漁獲量激減は、ほぼ全ての魚種にわたっており、能登半島地震による漁業被害が大きく影響していることは明らかであろう。
この24年の漁獲量の激減が、石川県の物流のメインストリームのひとつである「③主としての能登地域で水揚げされた水産物が生鮮と加工食品原料の両方として主として加賀地域に配送される貨物流動」に、マイナスの影響を与えたことは間違いないと考えるべきであろう。
残念ながら、筆者の知る限り、24年の農作物の収穫量や出荷量を示す数値は、一部を除いて公表されていないが、表5.で示した農業被害の状況に鑑み、「②加賀地域と能登地域の両方で収穫された農林産物が主として加賀地域に配送される貨物流動」に、マイナスの影響を及ぼしたことは間違いないと思われる。また、能登地域を中心に被害の影響が残っている可能性も否めない。
工業製品については、以下の図2.をご覧頂きたい。
このグラフは、22年1月から24年10月までの石川県の鉱工業生産指数と前年(同月期)比の推移を示したものである。能登半島地震が発生した24年1月に大きな落ち込みを示して以降、上昇と下降を繰り返しながら、漸次復旧の方向に向かいつつあるものの、24年を通して見ると、減少傾向が明確に表れていることは否めないであろう。
その背景には、表8.で示した石川県内工場の被害状況が「①主として加賀地域で生産された工業製品が主として加賀地域に配送される貨物流動」及ぼしたマイナスの影響があり、それに比較すると影響は部分的であったかも知れないが、表7.で示した石川県の食品産業の被害状況もあったと考えられるであろう。