首相自身も、「(トランプ氏は)テレビで見ると怖そうだが実際には人の話をよく聞く人で話ができる。相性はあう」(9日のNHK「日曜討論」)との印象を語った。
「大成功」、「政府の総力戦の結果」、「(首相は)最初のハードルを越えた」などという政府関係者の安堵のコメントが報じられた(朝日新聞、9日朝刊)。
日本の官民、「信頼」と「友情」を混同
会談成果に冷水を浴びせる意図は毛頭ないが、なごやかな雰囲気だったとはいえ、初顔合わせ、2時間そこそこの会談で双方がどれだけ互いの人間性に触れあうことができたか。日本側のはしゃぎぶりも、気のせいか空虚に響く。
会談前の写真撮影中、両首脳が視線を交わすことは少なく、トランプ氏がこころもち退屈そうな表情を見せていたことも気になったし、「(大統領は)首相をシゲルとよぶことはなく、個人的な信頼関係の構築には時間がかかる様子がうかがえた」(読売新聞、8日夕刊)という報道があったのも事実だ。
首相が自らの行動理念を抑制してまで大統領を持ち上げたり、勉強会に長時間も費やし、膨大な応答要領を暗記したりするのは、あたかも先方の歓心をかうための涙ぐましい努力のようにさえ映る。安倍―トランプ関係と比較されるのは、首相にとって本意ではないはずで、「自分は自分なりで」(読売新聞、2月9日朝刊)を貫いた方がよほど気楽、自然だったろう。
日本政府、メディアとも、「信頼関係」と「友情関係」を混同しているように思える。個人の関係においても、ウマが合わなくても信頼できる、仕事を任せられる――という関係は少なくない。
誠意を尽くして話し合い、条約上の義務を確実に履行していれば、信頼関係は生まれる。個人的な、甘ったるい関係がなければ機能しないほど日米の同盟関係は脆いものではないはずだ。アメリカから高い評価を得たいという〝妄想〟や強迫観念は捨てるときだ。
明らかにされぬUSスチール買収問題の詳細
一方、首脳会談でのもうひとつの焦点、日本製鉄によるUSスチールの買収問題については、玉虫色の合意という見方がもっぱらだ。
トランプ氏は共同記者会見で「(日鉄が)買収ではなく多額の投資を行うことで合意した。日鉄幹部と来週協議する」と述べ、「重要な企業が米国から去るのをみたくない」とも繰り返した。大統領は詳細に踏み込むのを避けたが、日鉄を含む日本側との話し合いが進んでいることをうかがわせる。
石破首相も会見で、「日本が投資することで、どちらかが一方的に利益を得る関係にしないことで合意した」と述べたが、やはり細部の説明は避けた。
