このような状況はまた、ロシア国内の労働力不足を一層深刻化させている。各国の経済制裁にもかかわらずロシアが高成長を続けているのは、旧ソ連時代に匹敵する規模の支出を国防費に振り分けており、それによって国内景気が活性化している実態がある。
人件費の高騰などを背景にインフレは加速し、さらにそのインフレを抑え込むために、政策金利は実に20%超という高水準となっている。ロシア企業がまともに活動することは困難な水準だといえる。
背後で進むロシアの工作
ウクライナのゼレンスキー大統領は、SNS上では欧州各国の指導者との電話会談を重ねている状況や、米国のケロッグ特使と会談した後には「希望を取り戻した」と発言するなど、努めて冷静な対応を続けている。ただ、トランプ政権がロシアとの交渉をさらに本格化すれば、バイデン政権の支援で政権を維持してきたゼレンスキー氏の出番はなくなるのが実情で、早晩政権を去らなければならないときが来るのは否定できない。
ただ、トランプ政権が思うように、ロシアが停戦に応じ、米国が望む形で事態が決着すると考えることはあまりにもナイーブだ。
ロシアは東部戦線で攻勢を続けるだけでなく、米国内でも、バイデン氏など歴代政権が続けてきた対外援助機関をめぐるフェイクニュースを多数展開している事実がウクライナなどの調査報道で明らかになっている。プーチン氏は開戦以前から、ウクライナとロシアの〝歴史的一体性〟を主張しており、同国全土を手中に収めることをあきらめてはいない。
米国がここで手を引き、仮にいったんは停戦が実現しても、ロシアが国力を回復した後に再びウクライナを侵略することは明らかだ。そのような状況に陥れば、ロシアの攻勢を止めるために米国が仲介できる可能性はさらに低下する。
高齢で、4年後に政権を去る可能性が高いトランプ氏は、第一期政権で達成しなかった政策課題を、一気に片付けようとしている。しかし、そのような短期的な視点でロシアと相対することは、あまりにも危険と言わざるを得ない。
