2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年3月4日

 Economist 誌の社説も、多くの諸国が「中国による台湾領有の主張をacknowledge した」と記しているが、この表現は米中間の上海コミュニケの表現に近似し、その表現の解釈として、米国が「中国はただ一つであり、台湾は中国の一部である との中国の立場をacknowledgeした」というが、acknowledgeは合意したことを意味せず、「聞き置いた」に近いと解釈されている。

 ただし、注意を要するのは、中国の立場を支持する諸国の中に「中国は統一を達成する『すべての』努力をする権利を有する」との文言(平和的手段に限られない)に同意している国が相当数あるとみられることである。外交活動に抜け目のない中国のことであるから、米国が大統領選等の内政上の諸手続きに忙殺されている時期を利用し、加えて就任前夜の米国大統領が世界中から警戒感を以って見られているのを奇貨として、その時期に生じた外交的真空領域に自己流のナラティブを伸張しておこうと考えるのは、想像に難くない。

訓練から演習へ、演習から戦争へ

 この社説が想起させる第二の課題は、中国軍による台湾侵略の切迫性である。昨年5月の頼清徳総統就任以来、中国軍による台湾近辺のパトロールや訓練が以前にない水準へ拡大してきている。昨年の台湾防空識別圏への中国軍の侵入は 2000 回を超えるという。

 昨年9月上旬、中国軍は台湾対岸の中国南東海岸で最大規模の水陸両用上陸訓練を実施したばかりか、空母群に台湾の北端付近を通過させ、その後日本最南端の島々の間を通って初めて日本の接続水域に侵入させた。また、戦争には至らないが、台湾経済を麻痺させることを狙った検疫や臨検についても、沿岸警備隊、海洋調査船、海警船などの非軍事公船の台湾周辺海域での活動が増加している。

 訓練から演習へ、演習から戦争への移行時期の見極めが難しくなっている。新常態とも表現されるが、「敵をありふれた景色に慣れさせて、敵の油断を誘って不意に攻撃する」という意味の三十六計の一つ、「瞞天過海」の戦術が念頭に浮かぶ。

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