2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年3月4日

 トランプ大統領は就任以来、台湾の半導体製造産業に関税を課すと威嚇はしてきたが、まだ台湾に対する政策を明らかにしていない。トランプ政権には、マルコ・ルビオ国務長官のような対中強硬派もいるが、イーロン・マスクのような中国応援派もいる。トランプ大統領と石破茂首相は、2月7日の首脳会談の後、台湾に関して、「力や威圧により現状を一方的に変更しようとするいかなる試みにも反対する」と述べた。

 しかし、トランプ大統領は、中国からの譲歩と引き換えに台湾を売り渡す取引に動く可能性がないわけではない。中国による台湾への全面侵攻はあり得ることで、習近平は人民解放軍に27年までに戦争準備を整えるよう指示した。もう1つの選択肢は、戦争には至らないものの、台湾経済を麻痺させることを狙った検疫や臨検の実行だ。

 中国の外交は、上記のどちらのシナリオになっても直面する対中非難を最小限に抑えることを目的として動いているようだ。習近平は、中国がどんな行動をとっても、世界の多くの国に中国の行動を正当化させることで、米国による中国への制裁をしにくくしたいと考えているのであろう。

 トランプ大統領の「アメリカ第一主義」の世界観は、アジアの友邦にアメリカのコミットメントに対する疑念を惹起している。こうした疑念が渦巻き始めている時、台湾をめぐる外交戦の中で、中国が如何に熱心に水面下での策略を練っているかを想像させる。

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「一つの中国政策」を「acknowledge」という意味

 この Economist 誌の社説は、台湾をめぐる二つの課題を想起させる。

 第一は、中国が主張する「一つの中国政策」の法律戦に関する課題である。弱い国に援助を縮小するのみならず、圧力さえ掛けるトランプ大統領に懸念を抱く途上諸国が中国に接近してくるのを好機と捉え、中国は「一つの中国政策」を精力的に拡散させているという。

 中華人民共和国政府は、1970年初頭以来、米国を皮切りに西側諸国とも国交を開く度に、執拗に「一つの中国」を認めさせる外交できたことはよく知られている。中国はそれを十把一絡げに「一つの中国政策」と便利に総称し、相手国が台湾は中国の一部であることを受け入れたと一方的に発表する傾向がある。


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