なお、これらは厚生労働省「毎月勤労統計調査」のデータに基づくが、「賃金構造基本統計調査」を用いて職種別(営業用貨物自動車運転者、大型・非大型)データを見ても、およそ同じ結果が確認された。特に労働時間が長かった大型トラックのドライバーについても、大企業では労働時間が短縮している。
また、総務省の「労働力調査」で運輸郵便業の正規の職員・従業員の労働時間を見ると、月間就業時間数が相対的に長い「月241時間以上」の比率は、2018年ごろまでは全体の2割近くを占めていたが、その後アップダウンはあるものの低下傾向を示し、近年は13~14%で推移している。つまり、長時間労働者の割合も減少しており、その傾向は新型コロナ後も継続している。いわゆる「2023年問題」と呼ばれた月60時間超の残業割増率の引き上げが、長時間労働者を減少させた可能性がある。
なお、このようにトラックドライバーの労働時間は短縮傾向にあるものの、他産業や他職業との格差は未だ大きい。例えば、大型トラックドライバーの超過実労働時間数は、男性労働者平均の2.5倍の長さであり、この格差は過去10年間変わっていない。(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。
賃金は上がったのか
労働時間の短縮が、いわゆる残業代の低下を引き起こし、ドライバーの離職を誘発することが懸念されてきた。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、道路貨物運送業の平均賃金(5人以上規模)は、2017年以降わずかに上昇してきたが、ここ数年は横ばいとなっている。
他方、道路貨物運送業の大企業では労働時間の短縮が進んだ時期から賃金が下落してきた(図表2-3)。大企業で労働時間の短縮が始まった年を2018年と想定し、その前年である2017年と2023年を比較すると、現金給与総額は、産業平均(5人以上規模)で8.7%増だったのに対し、大企業では8.6%減となった。ただし、大企業の賃金は、2020年に底をうち、2021年からは反転している。
賃金の内訳を見ると、産業平均では所定内給与、超過労働給与、「特別に支払われた給与」のいずれも増加しており、特に主に賞与を指す「特別に支払われた給与」の増加率が高い。ただし、この業界は賞与が相対的に少ないことを特徴としており、金額が小さいために増加率が大きく現れやすい。なお、大企業では所定内給与、超過労働給与、特別に支払われた給与のいずれも下落していたが、2023年からは所定内給与が増加傾向にある。つまり近年では、社会全体で春闘での賃上げが進んでいるが、運輸業界でもベースアップが起きていると考えられる。
