2025年12月6日(土)

「最後の暗黒大陸」物流の〝今〟

2025年3月5日

 まとめると中小企業では、労働時間の削減はあまり進んでいないものの、所定内給与の引き上げが進み、賃金単価はわずかではあるが上昇した。他方、大企業では、労働時間は削減したものの、それに伴い給与も下がり、結果的に現金給与総額で見る企業規模間の格差は縮小している。

運賃は上がったのか

 日本銀行の「企業向けサービス価格指数」(2020年基準)で道路貨物輸送の価格を見ると、消費税増税により2014年4月に上がり、2017年ごろから大きく上昇してきた。

 いわゆる「ヤマト・ショック」後、ヤマト運輸のみならず同業他社でも宅配便の料金値上げが進んだ。2017年秋から2019年にかけて、宅配便の企業向け価格が上昇してきたことは、データでも確認できる。道路貨物輸送の価格は、宅配便ほどではないが上昇を続けており、「物流危機」を引き金にトラック業界全体で価格改定が進んだと考えられる。なお2019年10月に消費税が8%から10%となった影響もある。

 しかし、2020年に入ると、価格の上昇は止まった。宅配便の価格は2024年8月現在までほぼ横ばいで推移している。他方、道路貨物輸送は2023年から再び上昇傾向にあるが、総平均の価格上昇には追いついていない。

 近年、政府は価格転嫁を呼びかけており、中小企業庁はその実態を調査してきた。上昇した原価のうち何割を価格に転嫁できたかを示す価格転嫁率は、2024年3月時点で平均46.1%だが、業界別に見るとトラック運送は28.1%と27業種中最下位だった(中小企業庁「価格交渉促進月間(2024年3月)フォローアップ調査結果」2024年)。同調査は、2021年から行われているが、トラック運送は常に最下位であり、いずれの業界よりも価格転嫁が難しいことが分かる。要素別の転嫁率を見ると、原材料費、エネルギー、労務費のいずれも25%程度にとどまっている。

 価格転嫁率は、価格交渉が行われているほど高まる傾向がある。しかし、「価格交渉は行われたが、全く転嫁できなかった企業の割合」は、トラック運送で19.7%と最も高く、この業界の運賃引き上げがいかに困難であるかが分かる。

矢野裕児、首藤若菜
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