2025年4月18日(金)

World Energy Watch

2025年3月4日

何のための水素市場

 東京都は、24年度203億円の水素関連予算の下、水素ステーション整備、FCV導入、水素市場などを支援している。

 水素市場では、グリーン水素の供給事業者と水素の需要事業者が、それぞれ売却、購入希望価格を入札する。グリーン水素の供給価格は高いので、当然需要家の希望価格を上回る。東京都が税金でこの差額を負担する制度だ。

 すでに、最初の入札が行われ、その結果が公表されている(表-2)。今年3月までの供給予想量は2万3000立方メートル(m3)とされる。供給側の価格は、現在の水素の市販価格の3倍のkg当たり約3300円になる。発熱量当たりガソリン価格の4、5倍の高い燃料だ。

 都は市場の目的をグリーン水素の需要を創出することと説明しているが、差額補填の水素市場は長期の大きな需要創出を妨げる。

 補助金で補填され売れるのであれば、供給者がコストを引き下げるインセンティブはなく、将来の大きな需要創出には逆効果だ。補助金で作り出した需要は持続可能ではないのは、はっきりしている。

 欧州の事例からも明らかなように、今必要なのはクリーン水素の製造あるいは輸入コストを下げ需要を作り出す手法であり、コストが下がらなければ真の需要は生まれない。

 都の水素市場は税金と人材の無駄使いであり、財政に余裕があるとしても地方自治体が行うべき政策ではない。最近話題になった駅のホームドア設置など資金と人材を振り向けるべき優先課題は多くある。

 日本が国として取り組むべき水素の大きな課題はコスト削減だが、その方法はあるだろうか。

水素のコストを考える

 EUでの水の電気分解による水素の製造コストは図-2の通りだ。今の電源の利用なので製造時にCO2が排出される。排出される量は各国の電源構成次第だ。

 国よりコストが大きく異なり、フィンランドの1kg当たり4.1ユーロ(約650円)からドイツの9.2ユーロ(約1470円)まで幅があるのは、産業用電気料金が国により異なるためだ(図-3)。

 水の電気分解により水素1kgを製造するには、約50キロワット時(kWh)の電気が必要だ。さらに、設備の減価償却費、操業費も必要になる。

 再エネ、あるいは小型モジュール炉の原子力の発電コストが将来下がるとしても、電力費を考えると、コストの低減には限界がある。加えて、中国が水電解装置の世界シェアの6割を握り、太陽光パネル、風力発電設備、EVに次いで、水素製造装置でも世界の覇権を狙っている。主要国は脱中国という課題を持つ。


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