2025年4月24日(木)

World Energy Watch

2025年3月4日

 天然ガスを原料にしたブルー水素の製造コストは、水電解よりも低い。EUでの試算では、天然ガス価格が百万BTU当たり12ドル(日本の現在の液化天然ガス(LNG)の輸入価格を少し下回る)の場合に、1kg当たり3.6ユーロ(約580円)とされる。

 この価格は、いまの日本のLNGあるいは原油価格のカロリー等価の2.5倍から3倍になり、脱炭素の時代のエネルギー価格を大きく押し上げる。水素が広がらない理由はやはりコストだ。

 米国ではシェール革命が天然ガス価格を大きく下げた。米国石油協会の試算では天然ガス価格が百万BTU当たり4.23ドルのケースで、ブルー水素を製造するコストは30年に1.84ドル/kgとされる。

 石炭、LNGよりは高いものの、原油価格とは、ほぼカロリー等価だ。米国産ブルー水素は化石燃料に対し競争力を持つ可能性がある。ただし、日本への輸送コストは高い。

水素は将来の石油になるのか

 訪欧時ドイツの経済団体の方と話をしていた時に、若い担当者が「水素は将来の石油になる。産油国の安い再エネの電気でグリーン水素を製造し、石油のように主要国に輸出する」と述べたところ、隣の役付き者が少し呆れたような顔をした。そんなことは起きないと思っているようで、「5年後、10年後がどうなっているか誰も分からない。状況を見るしかない」とコメントしていた。

 若い担当の方には申し訳ないが、水素は将来の石油にはならない。理由は2つある。

 ひとつは、誰でも水の電気分解で水素を製造できることだ。安く水素を製造できる国は、産油国ではなくエネルギー価格が安い国だろう。もうひとつは、水素の輸送コストは原油とは比較にならないほど高いことだ。

 水素を液化し海上輸送の上で発電に利用する日本の方針については、「そんなバカなことを考える国は日本とドイツしかない」との辛辣なコメントを欧州の面談時に聞いた。

 脱原発のドイツは、国中に再エネ設備を敷き詰めても必要な水素を製造する設備容量を得ることはできず、輸入するしかない。ドイツは水素を輸入し、将来天然ガス火力を水素火力に切り替える方針だ。ただし、政権交代により方針は変わるかもしれない。

 日本は、石炭火力で水素を燃焼し、CO2の排出削減につなげる方針だ。水の電気分解で作った水素を発電に利用すれば、効率は恐ろしく悪い。批判の矛先は高い発電コストにあり、水素火力は現実的ではないとする。

 水素発電よりも、石炭あるいは天然ガスで発電し発生するCO2を捕捉、貯留するほうが安くなるかもしれないとの指摘もある。

 水素のネックは輸送コストにある。欧州では、水素を輸送するのではなく、クリーン水素を安く製造可能な国で、鉄鋼、化学分野の半製品を製造の上で欧州に輸送し最終製品に仕上げるのが、コスト面からは水素輸送よりも有利との議論も聞いた。

日本の水素戦略は

 水素をマイナス253度で液化すれば、エネルギーの3割から4割は失われる。欧州では、現在水素の海上輸送に係るプロジェクトの95%はアンモニアの形で水素を輸送する計画になっている。

 日本で水の電解により水素を製造するコストは、kg当たり500円、600円を下回ることはないだろう。出力制御される再エネの電気では設備の利用率が低迷し、コストは高くなる。

 最も安い水素は、米国のブルー水素のアンモニアの形での輸入になる可能性が高い。肥料原料のアンモニアは今も大量に海上輸送され、貯蔵、利用されている。量が大きく増えても設備を増設すれば対処可能だ。

 地方自治体が水素市場を作るのは、現在の問題意識とかなりずれている。水素のコストを下げる方法を考えるのが現実的と思うが、東京都は無駄な支出を続けるのだろうか。

間違いだらけの電力問題
山本隆三 (著) ¥1,650 税込
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