2025年4月18日(金)

World Energy Watch

2025年3月4日

 現在の水素の大半は天然ガス、あるいは石炭から製造されているが、その過程で大量のCO2を排出する。水素1kg製造時に平均すると約9.5kgCO2が排出される。

 そんな水素では使用時にCO2が排出されなくても、脱炭素に寄与しない。製造時にCO2を排出しない水素でなければ脱炭素にはならない。

 水素は製造方法により、「色」で呼ばれている。色で脱炭素に貢献する水素は分かる(表-1)。ブルー、グリーン、ピンクという製造時にCO2をほとんど排出しない水素は、まとめてクリーン水素と呼ばれる。

 主要国は、CO2を排出しない水素の利用を進めようとしている。東京都の水素市場の狙いも同じだが、国と同じことを地方自治体が進めるのはなぜだろうか。地方自治体の政策に合致しているのだろうか。

 水素市場には都民の税金が投入されているが、住民が負担する費用と住民が得られる効用をきちんと分析した上での政策だろうか。

 そもそも、欧州諸国の進めていた水素戦略は大きく停滞し、見直しを迫られている。そんな中で東京都の狙いは実現するのだろうか。

停滞する欧州の水素戦略

 昨年10月に、欧州を訪問し国際機関、欧州連合(EU)とドイツの経済団体、コンサルなどとEUの水素戦略を議論した。

 ロシアのウクライナ侵攻後、EUは脱ロシア産化石燃料を目標に掲げた。政策は50年脱炭素の目標達成にも寄与する。

 政策の肝は、再エネと原子力の利用による電源の非炭素化と水素の利用にある。電気の利用が難しい先述の長距離道路輸送、外航船、航空機に加え、化学産業、高炉製鉄などではクリーン水素が必要だ。

 EUは、30年に1000万トンのクリーン水素を域内で、さらに1000万トンの水素を北アフリカ、ノルウェーなどの域外で製造し輸入する戦略を立案した。

 昨年7月に欧州会計監査院は、EUの水素戦略に関する報告書を提出し、「30年の再エネによる水素供給目標はあまりも野心的すぎる――現実を見よ」として、30年の目標達成はありえないと厳しい見方を示した。事業の見直しも続いている。

 ノルウェーのエネルギー企業エクイノールは、天然ガスを原料にブルー水素を製造し、ドイツにパイプライン経由輸出する事業を中止すると昨年9月に発表した。さらに10月に、デンマーク・エネルギー省のグリーン水素を製造し、ドイツに輸送する事業も数年以上遅延すると報じられた。

 EUは大きな水素製造量、輸送プロジェクトを打ち上げてみたものの、需要は見通せず、目標の製造、輸送量にはまったく届かないのが実状だ。30年の域内のクリーン水素製造目標量1000万トンに対し現状の見通しは250万トンに留まっている(図-1)。

 需要が見通せない最大の理由はクリーン水素の製造コストが高いことだが、東京都は需要を作り出すため水素市場を開設した。効果はあるのだろうか。


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