ロシアの継戦能力
これらのことを考えると、ロシアはあまり経済に負担をかけずに侵略戦争ができているように思われる。もちろん、これらの数字がすべて嘘である可能性もあるが、あまり大きな嘘ではないとしよう。
すると、失業率低下によって、前述のように、ロシアの実質GDPが21年から24年にかけて6.1%増加したことが重要である。これによって、ロシアは軍事費の負担にかなりの程度耐えることができたのではないか。
ただし、失業率が無限に低下する訳ではないから、これがおそらく限度だろうと思われる。ロシア経済が限度に達する前の段階で、ロシアは、アメリカのオファーを受けて有利に戦争を終わらすことができると思われる。
財政政策によってGDPを増やそうとしてもなかなか増えないとされている。しかし、ロシアの場合、21年から24年までの6.9兆ルーブル(21年価格)の実質財政支出増加で実質GDPは10.2兆ルーブルも増えている。
これはロシアの脅威に対抗しようとする国々においても同じだろう。防衛力の強化は様々な製造業の広範な製品を必要とする。研究開発もしなければならない。公共事業と異なり、より広範な産業を刺激する。
ということは、建設業という特定分野の生産能力や労働者を吸収してボトルネックを作ることもない。自動車不況に悩むドイツにとっても有益なのではないか。
実際、ドイツや欧州連合(EU)は防衛費拡大のための財政赤字であれば容認するという方針に転換した。ここで、前回本欄「経済の常識 VS 政策の非常識」で述べた英独仏伊のGDP合計はロシアの2.6倍、ウクライナに援助しているヨーロッパのすべての国のGDPの合計は4.7倍という事実が生きてくる(本欄「トランプに「論語と算盤」なんて言葉はない!ゼレンスキー会談で思うこと、ヨーロッパはもっと力を尽くすべきか?」2025年3月10日)。ヨーロッパは、防衛費拡大によって自らを防衛できる。
日本も、公共事業より防衛支出の増加の方が経済を広範に刺激できるのではないか。そこには様々な課題があると思うが、議論する価値はあるのかもしれない。