さらに、トランプの場合、ウクライナとの間では停戦問題だけを議論し、他方プーチンとの間ではより広く、米露関係の課題を調整しようとしている。3月18日のトランプ・プーチン会談の後の米露双方の対外発表には、イランの核問題を含む中東情勢につき併せ議論されたことが示唆されているが、これはトランプがウクライナ戦争の停戦問題と他の案件におけるディールを結びつけている可能性を疑わせる。
もしトランプが、イラン核問題等におけるプーチンとの何らかの合意と、ウクライナ戦争の停戦に関する合意を結びつけているとすれば、ウクライナが求める露側による譲歩の中で、仲介者たる米国自身の都合で露側につなぐことができないものがあることになる。
第三は、停戦について全ての戦闘行為を即時停止するのではなく、戦闘行為の要素に分けて、部分的な停止を積み重ねる方式をとろうとしていることである。
戦闘行為は全ての戦線において同等の優劣があるのではなく、戦線ごとに異なっている。今回の調整過程でのロシア側の動きを見ると、効果的に戦闘を進められていない戦線をまず封じ、自身が優勢である戦線を維持して戦争全体を有利に展開する意図に基づいている可能性が大きい。
歴史的に見た停戦合意の形
歴史上、米国の仲介による停戦交渉は数多くあるが、今回のやり方と類似の例を探すとすれば、ベトナム戦争の休戦交渉であろう。当時、米国は北ベトナム軍の南への駐留を含む休戦案をもって、軍事的・経済的援助の停止を材料に南ベトナム側に圧力をかけ、最終合意を達成したとされている。
残留を強く望んでいた南ベトナム政府を尻目に米軍は早々にと撤退した。その結果、ほどなく北ベトナム軍が侵攻し、統一が完成した。
これに対し朝鮮戦争においては休戦後も米軍が駐留し続け、その結果、散発的な銃撃などはあっても北朝鮮による全面侵攻が繰り返されることはなかった。ベトナムや朝鮮半島の「統一」に関する是非は別として、停戦合意はこれを維持するメカニズムがなければ崩壊することを歴史が証明している。
