批判される関税政策
4月2日にトランプ大統領が発表した相互関税は事前の予想よりもはるかに高い関税率であり、世界経済を悪化させるとして世界中の株式市場において下落を引き起こした。
米国が高関税を課せば、報復関税を打ち出す国もあり、世界が景気後退に陥る。米国内でも、関税は物価上昇を引き起こし消費の落ち込みにつながる。
ノーベル賞受賞の米国の経済学者からも批判の声が上がった。ニューヨーク市立大学大学院センターのポール・クルーグマン教授は、正気の沙汰ではないとして次のように批判した。
「関税率の根拠が理解不能。たとえば、欧州連合(EU)の米国商品への関税は平均3%以下だが、トランプ大統領の発表では39%とされている。イーロン・マスクのダニング=クルーガー(特定の分野において能力の限られた人が自分の能力を過大評価してしまう認知バイアス)の子供が、数字を作っているのか疑ってしまう」
コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授は、ラジオ、新聞のインタビューで次のように述べている。
「トランプ大統領はマクロ経済学の基礎を理解していないのではないか。貿易赤字は他国が米国に対し有利な立場にある結果とトランプは考え、関税を導入するが、マクロ経済学の初歩では貿易収支は国の貯蓄と投資の差であると学ぶ。要は、関税により貿易赤字になる対象国と輸入品は入れ替わるが、米国の投資、貯蓄額が変わらない限り貿易赤字は解消しない。
関税政策はトランプの取引材料かもしれないが、政策に不確実性があるということであり、投資が減少し不況下のインフレ、スタグフレーションに陥る可能性が高い。インフレを招く関税を、ようやくインフレから脱却しようという時点で導入するのは正気ではない。インフレ抑制のため金利が上昇する可能性も高い。インフレを相殺するほどのドル高になる可能性は低いだろう」。
自動車の輸出入と関税
トランプ大統領の考えは単純だ。たとえば、海外で生産される自動車と部品を米国内で生産すれば給与の高い雇用が生まれる。そのために輸入車に25%の関税を課し、米国内での生産を促す。
確かに、関税は自国産業の育成、保護に利用されている。最近では、米国のバイデン前大統領も中国製電気自動車(EV)に対し100%の関税をかけた。
世界のEV生産の6割を握る中国のEVが持つ競争力に、米国製のEVは対抗できないと考え、米国製EVの生産維持に乗り出したわけだが、大きな話題にはならなかった。消費者には他のEVの選択肢があり、消費者の実質負担はなかったからだ。
しかし、全ての車の価格を引き上げるトランプ関税は大きく異なる。米国での雇用増を目的に消費者の負担を大きく増やすことになる。
米国の自動車産業は大きな雇用を持ち、しかも年収も高い産業だ。米国で働く1億5400万人の24年5月時点の平均年収6万7920ドル(約1000万円)に対し、自動車を含む輸送用機器産業で働く178万人の平均年収は7万6120ドル(1150万円)だ。
貿易でも自動車は大きなインパクトを持つ。米国の24年のサービスを除いた財の輸出額は2兆838億ドル(310兆円)。輸入額は3兆2956億ドル(490兆円)だが、その内2195億ドル(33兆円)は自動車の輸入額だ。
米国からの自動車輸出額も592億ドルあり、自動車の貿易赤字額は1603億ドル(24兆円)。米国の自動車の国別の輸入額とそれから輸出額を差し引いた貿易赤字額は表-1の通りだ。
トランプ大統領が指摘するように米国車は日本では売れていない。日本からの輸出額は約6兆円だが、米国からの輸入額は、その2%程度しかない。