2024年7月16日(火)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2014年3月28日

 そして、この1.2万円ほどに今回の春闘回答分の賃上げが上乗せとなる。こう見ると、消費者物価上昇率(除く生鮮食品)が1.3%に達していることを勘案しても、消費増税分のかなりの部分が昨年来の所得増と今回の賃上げで賄えたと見てよいだろう。

 13年度の日本経済は劇的に回復したものの、14年度については消費税率引き上げで経済成長をゼロ%台と見込むエコノミストが多い。確かに、消費税増税の影響を完全に払しょくすることはできない。消費税増税前の駆け込み需要の反動減が4月以降生じることは避けられないからである。

 しかし、そもそも14年度には消費税増税分を上回る5.5兆円規模の経済対策が実施される。それに加えて増税額をそれなりに相殺する所得増となれば、消費税増税の景気への影響は限定的となろう。

日本経済活性化への官民協調

 今回の賃上げがもたらすのは、消費税引き上げの経済への悪影響を緩和するだけではない。経済好循環形成への大きなステップともなる。

 「消費低迷→企業業績の不振→消費低迷」の悪循環であったいままでのデフレが安定した成長と緩やかなインフレに転じるには、消費堅調が一層好調な企業業績を通じてさらなる消費堅調に結びつく好循環が形成されなければならない。

 この点で、賃上げは堅調な消費に結びつくことになる。そうなると、次のステップは、この堅調な消費を企業業績の拡大に結び付け、雇用と賃金の増加を通じてさらなる消費堅調に結びつけることとなる。

 ただし、今企業に期待されているのは雇用拡大と賃上げだけではない。すでに日本企業の自己資本比率は米国企業並みに充実しており、米国企業並みのリスクテイクが十分可能な水準となっている。

 したがって、企業にとっての次の一手は、得た利益を雇用拡大・賃上げもさることながらビジネスの拡大につぎ込むことである。それは、新たなビジネス拡大につながる研究開発や設備投資、グローバル化と人材の一層の活用などである。

 一方、経済好循環への次のステップに政府が無縁ということではない。政府としては、経済活性化に向けて企業を取り込む経営環境がさらに改善されるように整備することが欠かせない。


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