2025年6月15日(日)

偉人の愛した一室

2025年4月27日

 アトリエを離れて前庭に出てみた。岡本が愛した芭蕉の木が幾本も生い繁り、その葉陰に隠れるように立体造形「若い太陽」や「動物」などがあちらこちら、無造作に置かれている。この芸術家の内面を思わせるナチュラルかつ奔放な庭である。

生い茂る草木の中に彫刻が無造作に置かれた庭。彫刻の穴から草が生えたり、力強い自然と作品が共存している
葉を巻き込んでいる彫刻。木々が成長するたびに、庭の表情も変わるのが面白い

 岡本は生涯、個人に作品を売ることはなかった。アートは万人の目に触れる場所に置かれるべし、そう主張し、パブリックアートにこだわり続けた。作品が野ざらしになろうが気にする風はなく、巨大な野外立体アートを全国各地に残した。

 芸術は爆発であり、作品は公共のもの、それが岡本の思想だった。この稿で彼の全貌を俯瞰することなどとても叶わず、せめて、そのことだけはお伝えしたいと思った。

時代が岡本に追いつき
世界の若者を惹きつける

 万博以降、岡本は一層、メディアへの露出が多くなってゆく。バラエティやCMのパフォーマンスが世間を賑わす反面、前衛芸術家としての存在感は薄れていった。91年、都庁の陶板壁画が移転に伴い撤去され、保存されることなく廃棄されたのもそれを象徴するだろう。96年、生涯のパートナーに看取られて死去。

 だが、岡本は甦った。生誕100年を機に再評価の声が高まり、続いて、2022年から大規模な回顧展が全国を巡回したのは、大阪に万博がやってくるからばかりではない。それは、芸術論から若者向けの啓発書まで、数々の著作が改めて復刊されていることからもうかがえるし、瀬戸内の直島はじめ、パブリックアートの潮流が世界に広がっていることも無関係ではない。

書斎と彫刻アトリエだった棟が展示棟に生まれ変わっており、企画展ごとに様々な岡本作品を見ることができる

 平日の午後、ひっきりなしに来館者がある。日本人、外国人ともに若者が多い。対応に当たってくれたスタッフの岩瀬枝理子さんは話す。

 「外国人は〝太陽の塔〟を観て来られる方が多いようですが、日本の若者は、本に残された岡本の〝言葉〟がきっかけになっているようです」

 他人の声など気にするな、岡本が叫び続けたメッセージが、いま、若者の心をとらえる。彼が唱えたパブリックアートの象徴、万博の巨大モニュメントが世界の若者を惹きつける。前衛芸術家に我々がようやく追いついた。

一際目を引く「若い太陽」は1980年代後半の作品。「芸術は太陽のようなものだ」と常々語っていたという岡本にとって太陽は自身の象徴でもある。
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Wedge 2025年5月号より
やっぱ好きやねん! 大阪 自由都市を支える〝民の力〟
やっぱ好きやねん! 大阪 自由都市を支える〝民の力〟

いよいよ開幕する「大阪・関西万博2025」。大阪での万博の開催は、1970年以来、実に55年ぶりとなる。この間、東京一極集中が続き、日本の停滞とともに勢いが失われていった。そんな大阪を盛り上げようとする「熱気」や「動き」がいま、まちのあちこちで生まれている。支えているのは、大阪独自の〝民の力〟やそれらを受け入れる〝自由さ〟だ。大阪の隆盛に奮闘している人々の想いから、日本の第二都市であり、自由都市であるこれからの大阪のあり方を考えたい。


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