2025年6月21日(土)

Wedge REPORT

2025年4月28日

 第四には、国家から地域への焦点の移行が見られる。カナダ館は北部の自然や氷河をモチーフにした展示で、都市圏外の魅力を前面に出している。ブラジル館ではアマゾンや先住民文化といった多様な側面に焦点を当て、国家ブランドの中にある多様性を強調している。コロンビア館では、水資源をテーマにアマゾン、アンデス、カリブ海など異なる地域性を巡る構成を取り、地方的視点を観光に統合している。

 第五として、食と観光の融合も顕著である。タイ館では、本場のトムヤムクンを提供し、食体験による国の理解を促している。北欧パビリオンでは、現地の郷土料理であるスモーブローやベリーを使った料理が振る舞われ、味覚と文化の接点を提示。シンガポール館では、南国カクテルや料理が洗練された展示とともに提供され、都市型観光における味覚の役割が再定義されている。

 第六には、環境や持続可能性を主軸に据える展示も目立つ。ドイツ館では、サーキュラーエコノミー(循環型経済)をテーマに、経済と環境保護の両立を観光体験の中で提案。アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビア館では、砂漠における未来都市や自然再生のビジョンをプロジェクションマッピングで提示し、観光を通じた持続可能な未来像を描いている。ベルギー館では、水の三態を通じて、地域資源としての水の新たな可能性を提案している。

 最後に、テクノロジーと人間性の両立という観点も重要だ。イスラエル館では、高度な医療技術の展示を、戦地医療や人道支援の文脈で訴求し、技術と倫理の融合を実現している。台湾のTECH WORLD(企業パビリオン)では、巨大な木の形をしたスクリーンや波打つタブレット群が、デジタルと自然の共生というビジョンを直感的に伝えている。

 これらの傾向は、日本の地方自治体にとっても多くの示唆を与える。ストーリーテリング、五感型体験、価値観の共有、地域多様性の可視化、食文化の活用、環境意識の向上、そして技術の社会的活用といった手法は、今後の地域観光戦略において不可欠な要素となるであろう。大阪・関西万博は、観光の未来に向けた実験場であり、その成果をいかに地域に応用するかが問われている。

開幕初期の課題も解決

 オペレーションの改善もまた学ぶべき点であろう。まだ改善すべきオペレーションの課題は種々あるが、あれだけの大規模イベントで1週目に指摘されたいくつかの課題は、開幕から10日以内ですでにいくつか修正されてきている。

 開幕初週において来場者数の急増により入場時の待ち時間が最大で2時間に達するなど、多くの課題が指摘された。しかし、4月22日現在、運営側はこうした混雑への対応として複数の改善策を講じており、その効果が徐々に現れている。

 まず、入場ゲートに関しては、特に混雑が目立った東ゲートに対し、西ゲートの利用が促されている。西ゲートへは駅シャトルバスや空港直行バス、また舞洲・尼崎・堺のパーク&ライド駐車場からのシャトルバスが運行されており、これらの手段を使うことで比較的スムーズに入場できる環境が整備されつつある。

 パビリオンにおいても混雑緩和の工夫が進んでいる。たとえばアメリカ館では、待ち時間の集中を避けるために予約制が導入された。これにより、人気パビリオンへの訪問が事前に調整可能となり、来場者の動線の分散につながっている。


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