2025年12月6日(土)

Wedge REPORT

2025年5月7日

 物資や人員の輸送のための交通網の脆弱性も指摘される。

 海上の人工島である夢洲は、北側の「夢舞大橋」という橋と、南東側のトンネルだけでほかの陸地と結ばれていた。トンネルを通る地下鉄が開業したのは、25年1月のことだ。

 夢洲内に設置されていたコンテナターミナルは稼働を続けており、それらの交通の流れの合間を縫うように万博関連の資材が運び込まれた。大手ゼネコンは、トラックの移動状況などをデジタル技術で解析しつつ、渋滞の発生を防ぎながら資材を運び込む手法を取った。

 そのような取り組みを進めた結果、国内パビリオンの整備やリング建設は堅調に進んだ。リングにおいては、一部の工区では当初計画を2カ月も前倒して完成した。

 ゼネコンがリングの完成を急いだのには、もう一つの背景があった。リング内側の海外館の建設遅れだ。時期を繰り上げて完成させることで、リング建設のための人員の流れを解消し、ほかのパビリオン建設の作業員が現場に入りやすくする狙いがあった。また、狭い会場内で、資材置き場を確保する思惑もあったという。

 海外館はすべてリング内側に建設されていたために、つながったリングの間の限られたスペースを通り、トラックなどの重機が進入する必要があった。さらに、会場内の道路をコンクリートで舗装するなどの工事も必要だったが、重機がその上を通れば破損する可能性もある。

 関係者は「舗装された道路の上を、重機が通ることも一定程度は想定しないといけない。破損したら、再び工事を行うしかないだろう」と語っていた。

 工期が厳しさを増す中、会場内で事故が起きることもあった。ある国のパビリオンでは、敷地の外に鉄骨が落下する事故が起きたという。本来、各国は自国の敷地のなかで工事を完結させねばならないが、同国は敷地外に車両を止めるなどの違反行為が連発していた。

 人が下敷きになれば、死者が出る規模の事故だったというが、そのような事態にならなかったことは偶然だったとしかいいようがない。

 ある海外パビリオンの建設を請け負った企業幹部は、「台風や事故などで、建設工事が長期間止まることになれば、完成する保証はない」とも明言していた。工期はそれほど厳しく、多くのパビリオンが開幕時の開業にこぎつけたのは、運が味方した部分があるといえる。

建物、リングの再利用も

 万博会場の敷地をめぐっては、半年の会期を終えれば、万博協会は原則現状回復した後に行政に返還することになる。ただ、国内外のパビリオンをめぐっては、パソナグループが自社パビリオンの淡路島への移転を決めたり、各国も部材やパビリオン自体の再利用をめぐり、日本国内の団体などと交渉を進めるなど、建築物を可能な限り保全する動きが進んでいる。

 リングは一部を保存したり、部材を再利用することを協会と府市が検討している。ただ、前述のように海外政府関係者などからは、「これだけの建物を解体するなど信じられない」との声も上がる。来場者の人気が高まれば、保存などの可能性をめぐる議論が再浮上する可能性も否定できない。

 いずれにせよ、大阪・関西万博は日本の建設業界の力を世界に見せつけることとなった。

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