2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年5月13日

 トランプ大統領の関税政策は、世界の多くの国々に対しその米国との貿易不均衡に応じ関税率の引き上げを一方的に実施しようとしているが、今後米国と対立関係にある国々への関税引き上げは大きく、友好諸国に対する関税引き上げは小さく、それぞれ進行していく可能性がある。そして新たな対立の時代の諸国の経済関係は、対立する両側間に存在する経済依存関係を分断する方向に進んでいくだろう。

 欧州や日本などの米国の同盟諸国は、米国からの一方的関税引き上げに対しただちに対抗関税を適用するのではなく、苦言を呈しながらも政治的対立に発展しないよう、注意しながら外交関係の安定を模索しようとしている。冷戦時代に、経済通商分野での摩擦を是々非々で処理しつつ、それが政治安全保障の関係全般を混乱させないように「同盟関係を管理する」外交活動がなされていたが、米欧間も日米間も幾度もこの経験を積んでいる。

トランプ外交の本当の狙いは?

 米国政府にとって、その関税政策が米国の国益を害することは無論承知のことで、計算済みのことであろう。しかしそれが対立相手の経済利益、それを活用しての軍事力増強を抑制する上で効果があることも十分に計算しているであろう。米国新政府の政策に意味があるとすれば、その点にこそある。

 米国の友好諸国からは、なぜ、対立国に対してだけ関税を引き上げ、友好国にはそうしない政策をとらないのか、という苦言的疑問が提示されているのも自然なことだ。しかし、米国からすれば、新たな対立を主導する米国には国内安定を含めリソースが必要だ。

 上記のイグネイシャスの論説は、ソ連に対抗すべく中国と結ぼうとしたキッシンジャーとは「逆方向に」、トランプ外交は、中国に対抗すべくロシアを抱き込もうとしているが、天井のない協力関係にある中露両国はそれを予測して対応しており、成功は覚束ないと示唆している。しかし、隠密裏に中国との外交関係樹立を進めたキッシンジャーの場合と異なり、今回の全く隠密でない米国の対露外交の狙いは、単にウクライナ支援のリソースを対中対処に確保する程度の狙いであろうとの別の説の方が合理的ではないかと感じられる。

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