さらに、連邦労働統計局のデータによると、製造業に従事する大小合わせた全米企業24万8000社のうち、98.4%が従業員500人以下の小規模工場経営者であり、さらにそのうちの4分の3が20人以下の零細企業から成り立っている。全米労働総人口に占める製造業シェアも、わずか8.5%だ。
米国製造業全体の衰退ぶりを最も端的に示しているのが、国勢調査局が5年ごとに公表している追跡データだ。
それによると、02年から22年の20年間に起きた製造業の変化として①経済界全体の企業数が10%増となったのに対し、製造業界では50%減となった②雇用面でも経済界全体で14%以上増加したが、製造業界では逆に17%減となった③賃金上昇率でも全体では2倍以上となったが、製造業界ではわずか41%アップにとどまった――ことが明らかになっている。
とくにこの企業数、就業者数、賃金上昇率の3点は、経済活動の浮沈ぶりを知る上で重要な指標とされているだけに、そのいずれについても経済界全体の中でとくに製造業分野だけが低減していることは、注目に値する。
マッキンリーは「開かれた貿易」に転換
ハイテク技術分野のシンクタンクと知られる「Information Technology & Innovation Foundation=ITIF」は昨年8月公表の研究レポートの中で、国勢調査局データで明らかになった製造業の衰退ぶりを踏まえ、次のように結論付けている:
「かつて製造業の世界リーダーだった米国は、2010年にそのタイトルを中国に明け渡し、今日、営業規模で中国に2兆4000億ドルもの差をつけられている……(共和党保守派を中心とした)ワシントンの経済専門家たちは、製造業の実態について、イデオロギーではなく、客観的な不動のデータに基づいて議論すべきである。従来型の製造業の衰退は現実であり、それを否定するのではなく、政策決定者は、グローバル・パワーとして不可欠なITなど先端技術産業の成長戦略に取り組むべきである」
さらに、大局的見地から言えば、前世紀以来の米国経済の繁栄は、トランプ関税に象徴される保護主義ではなく、むしろ米国自らが主役を果たしてきた世界自由貿易体制の堅持によってもたらされてきた。
この点、トランプ氏がモデルとする19世紀末のマッキンリー大統領でさえも、就任当初こそ関税政策を打ち出したが、対外市場を度外視した経済運営の限界に直面。その後は各国との「開かれた貿易政策」に転換し、米国の繁栄に寄与したことは記憶に留めておくべきだ。
それでもなお、トランプ政権が今後も、製造業復活目的で関税の大ナタを振り回し、自由貿易体制をないがしろにし続けるならば、大統領就任演説で国民に約束した「米国黄金時代の到来」はおろか、逆に経済低迷を招くことになりかねない。
