2025年12月5日(金)

トランプ2.0

2025年5月13日

 若年世代の多くが自らのキャリアを最初から金融、通信、ITなどのサービス関連業に求め始めた結果、熟練労働力不足が深刻化してきている。

 「デロイトトーマツコンサルティング」が「製造業研究所」と共同で発表したレポートによると、米国製造業界全体では2030年までに、熟練労働者不足が210万人にも達する見込みだという。

製造業へ大型投資できるのか?

 このほか、国内資本投資およびインフラ整備の問題も無視できない。

 製鉄業、自動車メーカーひとつ例にとっても、かつて米製造業が全盛を極めた40~50年前のままの工場や設備をそのままにして生産を開始することはできない。世界の企業は今日、最先端の設備や技術を駆使して激しい品質競争を展開しており、再稼働あるいは新規工場建設をめざす米企業がこれに対抗するには莫大な資本投資が求められる。

 しかし、IT時代の今日、未来志向型の投資家たちが、他国製品と比較して高価格となることが確実な米国製造業に競って融資する可能性は決して大とは言えない。

 また、製造工場のみならず、それを支えるための輸送手段、エネルギー、通信設備などの強靭なインフラ整備、そして莫大な社会資本投資も不可欠だが、「小さな政府」をめざす共和党政権に果たしてどれだけの政府投資が期待できるか、疑問符がつく。

 こうしたことから、「フォーブス」誌が指摘する通り、関税による米国内における製造業復活は雇用拡大、経済成長、経済安全保障の面でメリットは大きいものの、周到な考慮と戦略的計画立案が必要であり、一言でいえば、「言うは易く行うは難し」だ。

米国経済界で製造業が低減する現実

 しかし、現実論以外に、そもそも製造業そのものが将来的に、米国経済全体にとって再び主役に成り得るのか、という問題がある。

 製造業に重きを置く共和党の「産業政策」推進論者の間ではこれまで、製造業こそが米国経済のエンジンであり、富の蓄積が技術革新を可能とし、世界市場の制覇につながると信じられてきた。

 ところが、英「Economist」誌によると、23年第三四半期の米国経済を例にとった場合、国内総生産(GDP)は年平均で4.9%拡大したが、成長の80%がサービス業で占められた。製造業が果たした役割はわずかだった。代わってパソコン、スマートフォンなどのハイテク製品が成長を押し上げた。

 製造業自体の生産性も、87年をピークとしてそれ以降は毎年0.2%の割合で恒常的に下落傾向が続いてきた。生産性が低下し続けてきた製品の中には、自動車、電化製品などのほかに、セメント、コンリート関連、さらにたばこ、衣類、紙などの非耐久消費財の多くが含まれるという。


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