対トランプの「関税交渉の戦術」
今年2月28日(現地時間)にホワイトハウスで行われたウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領とトランプの会談は、激しい口論の結果、決裂し、その日に予定していたと言われる鉱物資源の協定合意に至らなかった。トランプはゼレンスキーをピンポイント(指弾)して、ウクライナには「交渉カードがない」、ウクライナは「ロシアに負けている」「米国に感謝していない」と強い口調で述べた。挙句の果てには、公の場でゼレンスキーが国民の命を賭けて、第3次世界大戦をもたらしかねない「ギャンブルをしている」と非難した。
一方、ゼレンスキーは腕を組む姿勢を崩さず強い「ノー」というメッセージを送り、大国であり最大の支援国でもある米国の大統領に向かって、「カード遊びはしていない」と、こちらも面前で反論した。
トランプとゼレンスキーは、交渉における原理原則から外れた行動をとってしまった。ハーバード大学のフィッシャーとユーリーは、1983年に出版した共著『GETTING TO YES』(邦訳『ハーバード流交渉術』三笠書房)の中で、「人と問題を切り離す」重要性について指摘した。この原則は現在でも有効である。争点や問題点ではなく、交渉相手を攻撃すれば、交渉は決裂して合意は遠のくからである。
トランプのゼレンスキーに対する声のトーンやジャスチャー、表情といった非言語コミュニケーションは、かなり攻撃的であった。トランプは相手の意見を積極的に傾聴し、敬意を示す態度を示さなかった。彼は、ゼレンスキーを「ジュニアパートナー」として見下していることが、生放送で、しかも台本のない口論を通じて明白になった。
一方で、トランプも公の場で、自分を恐れない弱小国の指導者の反論にあったことは、大きな計算違いであっただろう。
この記者会見の失敗から、日本は何を学べるだろうか。
仮に、日本側がトランプを刺激すると、彼は攻撃的なトーンで、「われわれは日本を守るが、日本はわれわれを守らない」「日本は米国に感謝していない」などと畳みかけてくる可能性が高い。では、トランプにはどのようなアプローチが有効だろうか。
筆者の研究からすれば、「傾聴」、「敬意」そして今回の場合、「感謝」の表明が鍵を握る。ゼレンスキーとトランプの口論は、正に傾聴と敬意の欠如から起きた。トランプとの交渉では、彼に敬意と感謝を示し、極力議論を避け、積極的に傾聴することが不可欠だ。
