2025年12月5日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2025年5月17日

天文学は人類にとって最初の学問

 本書にはボイジャー号の話題も登場する。

 1977年にNASA(アメリカ航空宇宙局)が1号、2号を打ち上げた惑星探査機であり、1990年に約60億キロ彼方から小さな地球を撮影し、現在も飛行し続けている。

―― 天文学者カール・セーガンが企画した『ゴールド・レコード』に各国の言語や鳥の声、風の音、各種音楽が収納されているので、いつか宇宙の生命体に届くかもしれない?

「音楽ならば、宇宙人でもわかるかも(笑)」

―― 太陽圏を離れても飛び続けるため、地球や太陽が消滅した後でも飛ぶ、とありますが、部品や収納物は劣化しないんですか?

「真空の中では劣化は起きません。ボイジャーはそのまま等速直線運動を続けます。土星探査機のカッシーニなど大半の探査機は役目を終えると惑星に突入して寿命を終えますが、ボイジャーはそこが大きく違います」

 天文学者で作家でもあるカール・セーガンの著書『COSMOS』は、中学生時代の永田さんに決定的な影響を与えた本だった。もともと星好きだった永田さんは、この本と後続のテレビ番組を見てプラネタリウム解説員を目指したのである。

―― カール・セーガンはボイジャーから眺めた地球を“小さな青い点、私たちのたった一つの故郷”と言っていますね?

「ええ。ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したごく狭い領域の宇宙に、3000個の銀河が映っていました。1個あたり数千億個の星があるとすると、狭い領域だけでも3000×数千億個の星がある。宇宙から俯瞰して自分たちを見ると、小さなことにあたふたしていることがよくわかります。天文学が人間を謙虚にしてくれるんですね」

 地球は誕生から46億年たっている。46億年を1年に換算すると、恐竜の絶滅は12月26日のこと、人類の2足歩行は12月31日午後3時39分、人間の文明の開始は12月31日午後11時59分47秒となる。我々の文明は、地球の1年のわずか13秒間の出来事に過ぎないのだ。

―― 星についてズブの素人が、今夜から星を見てみたいと思ったら、どのような見方をすればいいのでしょうか?

「簡単ですよ。学校や会社から帰ったら、テレビを消して、部屋の明かりを消して、窓を開けて夜空を見上げる。それだけです。私は現在、コスモブラネタリウム渋谷で働いていますが、渋谷からでも見えますよ」

―― 地上のネオンや照明、電灯は?

「地表が明るくても見える星はあります。時間、角度、方角を変えてみてください。少し早起きして夜明け前の星空もいいですよ」

 永田さんによれば、スマホに星座表のアプリを入れておき星空観察に併用すれば、星座の名前と位置を早く覚えられるという。

「星を見ることは、誰でも、何歳からでもできます。ぜひ、楽しみの一つに加えていただき、“宇宙の中のあなた”をいつも身近に感じ、考えてもらえればと思います」

 ただ、永田さんが目下のところ懸念しているのは、国立天文台を始め各地の天文関係の施設が運営資金問題で苦戦していること。

「私も国立天文台のブラックホール可視化プロジェクトのクラウドファンディングをお手伝いしていましたが、なかなか大変です。“星を見るのに金をかけるのはコスパが悪い”とよく言われますけど、真剣に地球温暖化や気候変動のことを考えるなら、天文学のことを知らないと本当の効果はありません」

 本書に何度か出てきた言葉を、最後に思い出した。天文学は人類にとって最初の学問だった……。

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る