2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年5月21日

 こうした戦術のトップに来るのが、大幅に増員された沿岸警備隊の台湾海域での臨検と通関検査だ。中国の目的は台湾の主権を掘り崩し、市民の間に有事の際に米国は助けに来る意思と能力はあるのかという疑念を植え付けることにある。

 さらに、中国のグレイゾーン戦術は台湾政治の慢性的機能不全という第3の要因を利用すべく設計されている。台湾の政治は慢性的な両極化と自己満足に陥っている。

 昨年の選挙以来、議会は中国に融和的な国民党と民進党に失望した若年層が支持する新たな第三党によって支配され、台湾は防衛支出の拡大等の措置をとれずにいる。中国の浸透を取り締まろうとした頼総統の努力も裏目に出て両極化を増幅させてしまった。これで米国の台湾防衛の約束が弱まれば、台湾は抵抗する気力を失ってしまうかもしれない。

 そして台湾に自らを防衛する覚悟がなければ、米国が台湾を助けに来る可能性はさらに小さくなる。危険なのは、これによって武力行使のない内に台湾が次第に中国の影響下に入ってしまうことだ。

 これは何を意味するのか。まず、台湾の民主主義の破滅を意味しよう。台湾ではやがて親中の政府さえ樹立されるかもしれない。

 また西側では半導体供給を巡ってパニックが起きるだろう。太平洋における米国の優位には途轍もない努力が必要になろう。他方、人民解放軍は資産を獲得し、その影響力が及ぶ範囲は拡大しよう。

 米軍は第一列島線を防衛する現行の配備態勢から日本とフィリピンを結ぶ第二列島線へと後退せざるを得なくなり、アジアの同盟国は安心を得ようと思うのなら、新たな経済条約や軍事条約が必要になるだろう。それが得られなければこれらの国は核武装に踏み切るかもしれない。

 中国はこうした矛盾を見逃さない。少し前までは台湾の支配権の奪取は待つべきだと考えるのが習にとって合理的だったが、今や彼は好機到来、手遅れになる前に素早く行動すべきだと断ずるかもしれない。

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真剣に受け止めるべき「警告」

 この社説は Economist 誌に掲載されたものであるが、極めてアラーミングな社説である。ただ Economist 誌は、いたずらにアラーミングな社説を掲載するような雑誌ではない。


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