戦後の国際秩序を破壊するロシアのウクライナ侵略は、すでに3年あまりが経過し、「今日のウクライナは明日の東アジア」(岸田文雄・前首相)という問題意識も広く国民に共有されている。ロシアの侵略を支え、台湾侵攻を否定しない中国と対峙する日本が生き延びていくためには、米国との同盟を一層強化することが欠かせない。
と同時に、ウクライナが侵略されたことによって、北大西洋条約機構(NATO)の価値、つまり、国際秩序を維持していくために不可欠な集団的自衛権の重要性が再確認されたのではないだろうか。
皮肉にも、トランプ大統領が再登板し、国際秩序を支えてきた米国への信頼が揺らぎ、日本は今、英仏独や豪州、フィリピンなど戦後秩序の維持という「志」を一にする同志国との連携強化を急がざるを得なくなっている。だが果たして、自衛隊に憲法上の制約を課したままで、どこまで安保協力は可能なのだろうか。
日比・日米の両会談で使われた「ワン・シアター」
シアター(theater)という単語を軍事的な意味として使えば、戦時に一つの作戦を実行する地域を示す「戦域」と訳される。その言葉を2月、中谷元防衛相が訪問先のフィリピンで、マルコス大統領に対し「日本とフィリピンは同じシアターで防衛を考えるべきだ」と伝えたとされる。翌3月の日米防衛相会談の後で、米国のヘグセス国防長官は「今日の議論で何度も出てきた用語の一つは、ワン・シアターだ」と語っている。
言葉の意味について記者会見で問われた中谷防衛相は、やり取りの詳細は差し控えるとしたうえで、インド太平洋地域、とりわけ東シナ海や南シナ海には、力または威圧による一方的な現状変更の試みを含めて課題が山積しており、「この地域の安全保障環境を一つのものとして、同盟国、同志国との連携を発展させていく」などと説明している。
だが、ほとんど用いられたことのなかった「ワン・シアター」という用語をあえて使ったことを考えれば、インド太平洋を一つの戦域として捉え、中国の一方的な力による現状変更に対し、今後は米比同盟と日米同盟が共同して作戦を遂行するという意味を含んでいると考えるのが妥当だろう。