事実、2月の日比防衛相会談では、①日比間で運用面の戦略的連携を協議する枠組みを新設する②防衛当局間で軍事情報保護の在り方を協議する③長期的な防衛装備・技術協力の枠組みを設ける――などが合意されている。
インド太平洋地域の平和と安定を目指す試みであり、異論はないが、日本が安全保障で関与する地域が拡大することは、同時に責任が増すことでもあり、自衛隊の能力、憲法上の制約を踏まえて、国民に説明し、議論する必要がある。親善目的や技量向上のために平時に訓練を一緒に行うのとはわけが違う。
急ピッチで進む欧州との連携
ロシアがウクライナを侵略する前から、中国を新たな脅威と捉え、侵略後はロシアと中国との連携に強い懸念を示していたNATOは2022年6月、中国の野心や強要的政策への警戒感を打ち出した新たな「戦略概念」を策定、英仏独などNATO加盟国はインド太平洋地域への関与を強めると同時に、自衛隊との連携強化を急ピッチで進めている。
今夏に来日する英空母打撃群は、英・ポーツマスを出港する直前の4月16日、読売新聞のインタビューに応じ、司令官は「海自や空自の隊員を初めて空母に乗艦させ、共同で訓練する」と自衛隊との連携に意欲を示し、中国とは名指ししないものの、派遣の目的は「ルールに基づく国際秩序を擁護するため」と語っている。
すでに日英間では、武器や弾薬の持ち込み手続きなどが簡素化できる「円滑化協定」を23年に結んでおり、今回の共同訓練では、自衛隊が日本防衛のために行動をともにする他国軍を守る「武器等防護」(自衛隊法95条)を英空母打撃群に適用することが検討されている。適用されれば米国と豪州に続き3カ国目となり、日英間の協力の深化、強さを示すことになる。だが、課題はないのだろうか。
連携や協力の強化で想定されること
他国軍を守る「武器等防護」の規定は、日本周辺海空域で日本の防衛を目的とした活動に従事している米軍等の艦艇や航空機を自衛隊が防護することが前提であり、インド太平洋地域全般を想定しているわけではない。言い換えれば、日比間で戦略的連携を強化する枠組みができたとしても、フィリピン周辺海域で発生する事態に際し、自衛隊がフィリピン軍の艦艇や航空機を防護する根拠とはならない。
では日比間で何ができるのか――。南シナ海でフィリピン軍が中国軍の攻撃を受けた事態を想定してみる。敢えて探そうとすれば、「重要影響事態安全確保法」に基づき、政府が「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至る恐れがある事態等」と判断し、事態認定が国会で承認されたケースが考えられるだろう。
仮に承認されれば、自衛隊はフィリピン軍に対して戦闘が行われていない後方地域において、燃料の補給や輸送など後方支援活動を提供することができるが、そもそも重要影響事態と認定される可能性は限りなく低いのではないだろうか。

