疫学研究のような集団レベルのデータから個人の因果関係を直接推認することには慎重であり、科学的証明の基準を高く設定する傾向が見られる。たばこの被害は社会で広く認知されていること、そのうえでたばこを社会が受容していること、だから喫煙は自己責任とみなされることなども影響している。
今後も日本での訴訟は起こりにくい
PFAS問題とは、広範な環境汚染により、大きな不安の原因になっているが、その健康リスクは科学的に極めて不確実という複雑な課題である。欧米では政治的配慮でPFAS対策を厳格化する傾向にあるが、日本では科学的事実に基づいた対策を行っている。
米国ではPFAS訴訟が多発し、水質汚染に対しては巨額の賠償金が支払われている。他方、個人の健康被害請求は科学的な因果関係の証明が困難なため、進展していない。日本ではPFAS訴訟は起こっていない。
PFASによる健康被害についは、実際の被害例が見られないこと、疫学調査で特異的な症状がないなどから、因果関係の証明がたばこよりさらに難しいため、陪審員裁判制度の米国でさえ有罪にはなっていない。ましてや、陪審員ではなく裁判官が判断する日本の裁判では、因果関係が認定される可能性が低いこと、たとえ勝訴しても米国のような高額の賠償金は獲得できないことなどの理由で、日本では今後も健康被害の訴訟が起こる可能性は低いと考えられる。
