2025年12月5日(金)

インドから見た世界のリアル

2025年5月20日

 つまり、インドから見ると、パキスタンからの電話だから、アメリカは関係ない。でもパキスタンは、アメリカの後押しを得ながら、インドに電話をかけた可能性が高い。その点で、アメリカは、パキスタンがインドに停戦の電話をかける勇気を与えた点で、間接的に関与したのだろう。

モディ首相沈黙の意味

 なぜモディ首相は、何も言わないのか。パキスタンから電話が来て、停戦を求めてきたのだから、インドは「アメリカの関与などなかった。インドは独自に戦い、勝ったのだ」と主張することも、不可能ではないはずである。しかし、それを言わないことこそが、モディ首相による外交の優れた部分である。

 そもそも、アメリカが印パの軍事衝突が核戦争に発展しないように、両国に積極的な外交を行ってきたことは事実だ。それに、アメリカはテロ攻撃を受けたインドに同情的である。

 長年テロを支援し、かつてアメリカを攻撃したオサマ・ビン・ラディンまで、パキスタン陸軍司令部のすぐ近くに住んでいた事実から見て、アメリカはパキスタンを信用していない。だから、アメリカが、インドが不利にならないように努力していたのは、わかっている。

 しかも、米印関係は、バイデン政権の時、悪化しつつあった。トランプ政権になって、インドは喜んでいたところだ。実際、モディ首相は、トランプ政権が就任から1カ月以内にホワイトハウスに呼んだ、4人の首脳の1人である。

 関税に関する交渉をしている最中でもある。そんなときに、何もかも全部インドの手柄としてしまって、トランプ政権に恥をかかせることは得策だろうか。そこは、トランプ大統領の顔を立てるべき時である。

 今、トランプ大統領は、仲介外交の成果を欲している。トランプ大統領がアレンジしたロシアとウクライナの停戦は、まだ実現してない。イスラエルとハマスの戦闘は、トランプ大統領が「地獄を見る」と言ったことで、一時的に達成されたが、それも再開してしまった。とうとうトランプ大統領は、イスラエルに配慮しつつも、ハマスと直接交渉して、アメリカ国籍の人質だけ解放させて、それ以後、目立つ行動を避けている。

 トランプ大統領は、仲介外交での成果を必要としている。印パはその初成果になる。

 この状況からすれば、実際、いろいろ外交努力していたトランプ大統領に、停戦のおすそ分けをしてもいいとモディ首相が判断した可能性はある。なんでも自分の手柄にしてしまわないところに、モディ外交の実力が見え、何も言わず黙っているのが得策なのである。

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