2025年12月5日(金)

トランプ2.0

2025年5月20日

限界が見えたトランプ流ディール

 だが、この米中貿易戦争で、本当に立場が強いのは米国の方だろうか。

 トランプは、中国からの輸入品に対して3桁の関税をかけた直後から、中国が米国とディールをしたがっていると繰り返し述べ、米国の方が中国よりも立場が強く、優位性があるというメッセージを発した。しかし、中国側は自分からはコンタクトをとっていないと発表し、習近平国家主席は「遅延戦術」をとり、交渉のテーブルに着こうとしなかった。

 その理由の1つは、習はいかなる選挙の洗礼も受けなくてよいことにある。対する米国大統領は、さしあたって2026 年11月の中間選挙で与党を勝利に導く必要がある。引き延ばし戦術は、合意を急ぐトランプに対して有効だ。

 ちなみに、ウラジーミル・プーチン露大統領はロシア・ウクライナ戦争で、自ら交渉のテーブルに着こうとはせず、遅延戦術をとっている。イスラエル・ハマス戦争の停戦協議も進展しない。その背景には、汚職疑惑のあるベンヤミン・ネタニヤフ首相が戦争を引き延ばして、裁判を回避し続ける意図があると言われている。ネタニヤフも遅延戦術をとっており、トランプのディール力は効果を発揮できていない。

 話を本論に戻そう。中国は、レアアース(希土類)を過度に中国に依存する米国に対して、レアアース輸出規制という交渉カードを切った。それは確実に、米国に大打撃となるものであった。グリーランド、ウクライナ、カナダおよびコンゴ共和国の鉱物資源獲得を狙い、中国に対するレアアース依存度を低下させるべく動き出したトランプ政権であるが、米国にレアアース危機をもたらす中国の交渉カードには太刀打ちできなかった。

 この点において、立場が強かったのはトランプの関税率のエスカレート策に対して、米国へのレアアース輸出制限という強力な対抗措置をとった中国であった。トランプは、「神、宗教、関税」と並列して挙げ、関税を「万能薬」のように過信し、高関税により相手に圧力と脅しをかけて有利なディールを引き出そうとしたが、彼のディールのやり方に限界がみえた。

 また、米有力紙ウォールストリートジャーナルのグレッグ・イップ経済担当チーフコメンテーターが指摘したように、トランプの関税に関する方向転換は、米国民の方にも耐えられる痛みに限界があることも示した。トランプが課した関税は、米消費者や投資家、個人事業主等に加え、全世界に大きな不安と不確実性を与え、そればかりではなく実害ももたらした。

 トランプは自身の策によって、自身を追い込む結果となった。「策士、策に溺れる」に似せて言えば、「関税男、相互関税に溺れる」と言えそうだ。

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