2025年12月5日(金)

プーチンのロシア

2025年5月23日

 この「不滅の連隊」の行進に、近年、ウクライナ侵攻で亡くなった家族の写真や名前を掲げる遺族が加わるようになった。今年の5月9日における「不滅の連隊」の行進は、ロシア全域に及ぶ57の地域で開催され、700万人が参加した。

 サンクトペテルブルグでは120万人、ウラル連邦管区のチェリャビンスクで20万人、沿ヴォルガ連邦管区のバシコルトスタンの首都ウファで18万人、タタールスタンの首都カザンで15万人と、その参加者数は記録的な規模となった。これに、ロシア政府当局は、ウクライナ戦争の前線で戦死したロシア兵士の遺族が参加することをむしろ奨励し、公に追悼することを認めた。

 つまり、プーチン大統領は、「大祖国戦争」と「特別軍事作戦」と呼称するウクライナ侵攻の戦死者が同等であるという認識をロシア社会に植え付けようとしているのだ。ウクライナ戦争では、モスクワやサンクトペテルブルグといった都市部よりも、シベリア極東やロシア南部・北カフカス地方から従軍した少数民族の犠牲者が多いとされる。実際、ブリヤート共和国、トゥヴァ共和国、サハ共和国、ザバイカルスキー、イルクーツク、オムスク地域などの地方では、多くのウクライナ戦争の戦死者の写真を携えた遺族が行進する姿が確認されたという。

 こうした戦勝記念式典の変容を、英国の政治・経済誌「エコノミスト」編集者のアルカディ・オストロフスキー氏は、在ベルリンのシンクタンクであるカーネギーロシアユーラシアセンターのアレキサンダー・ガブエフ氏との5月10日付Podcast対談において、「プーチン大統領による戦勝記念日のハイジャック」と形容している。

 また、5月9日付モスクワタイムズ(ロシア政府当局から「好ましくない組織」に指定されているためオンラインでの活動が中心)は、現在のロシアでは非常に限られた存在となっている反戦グループ「フリー・ヤクート財団」のヴェロニカ・レフチェンコワ氏の発言を引いて、「戦勝記念式典はクレムリンのためのショー」と非難する傍ら、「不滅の連隊」行進に参加するウクライナ戦争の犠牲者遺族について、「自分たちに起こっている洗脳を、ほとんどの人々が認識していない可能性もある」と指摘している。

国民はプーチンのナラティブに支持も

 ロシア極東の都市ウラジオストクに居住する筆者友人のロシア人は、「変容する戦勝記念式典をロシア市民は実際のところどう迎えているのか」という筆者の質問に対し、「人によって捉え方はまちまち」と回答した後、「ただ全体として愛国心は高まっている」と付言した。筆者は、「第二次世界大戦の退役軍人や年配者は、ウクライナ侵攻と一緒にされるのを冷ややかに考えているのではないか」、「若年層は恒例の国威発揚のセレモニーと冷めた見方をしているのではないか」という印象をもっていたが、それは必ずしも事実とはいえないようだ。

 とはいえ、ウクライナ侵攻開始から丸3年と3カ月。何かがおかしいと気づきつつも、後に引けなくなり強硬に戦争を継続するプーチン政権を盲目的に支持せざるをえない空気感がロシア全土を覆っているというのも事実だろう。


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