2025年12月5日(金)

プーチンのロシア

2025年5月23日

 人口は約100万人に満たないが、インドと同規模の面積を有する地下資源豊富なサハ共和国では、第二次世界大戦で3万人以上が戦死し、ウクライナでの特別軍事作戦により、成人男性の少なくとも1140人が犠牲になったとされる。サハ共和国のニュースサイト「Yakutsk24」を覗いてみると、同共和国の首都ヤクーツクでは、「不滅の連隊」の行進においては、2つの戦争各々で亡くなった兵士の遺族が参加するとともに、戦勝記念日にあわせワルツのダンスイベントや宗教行事など、130もの様々な催しが開催されていることが分かる。

 サハ共和国の軍事パレードを監督した首長のアイセン・ニコラエフ氏は、戦勝記念式典において、「大祖国戦争」とウクライナでの「特別軍事作戦」の類似性を指摘し、この2つの戦いの間には歴史的かつ世代間の連続性があると強調の上、「ウクライナでロシア兵はナチスと戦っている」というプーチン大統領のナラティブを全面的に支持するスピーチを行っている。

 もっとも、「ウクライナ侵攻をナチスとの戦いのため」と正当化するプーチン大統領の言説にはやはり違和感を覚える。独ソ戦の激戦地となったウクライナは「大祖国戦争」を勝利に導いた旧ソ連の重要な構成主体であり、「不滅の連隊」行進イベントも、ウクライナ侵攻前はロシアと連携して行われてきた。そして、プーチン氏が「ネオナチ」と繰り返し呼称するゼレンスキー大統領は、ウクライナ東部ドニプロペトロウシク州出身でそもそもロシア語を母語とするユダヤ系ウクライナ人なのだ。

ロシア周辺国による〝静かな抵抗〟

 第二次世界大戦を旧ソ連の構成主体として、ともに戦ったという観点でいえば、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、キルギス、タジキスタンといった中央アジア諸国も同様だ。これらの国々の首脳は今回の戦勝記念式典に参加して軍事パレードを観覧したが、状況は非常に複雑だ。

 これらの旧ソ連から独立した国々は「大祖国戦争」への追悼については、ロシアと常に共有できるが、ウクライナ侵攻は絶対に是認できない。したがって、例えばカザフスタンにおける「不滅の連隊」の行進に、ウクライナでの戦争が混ざりこむことは決してない。

 その一方で、軍事大国ロシアと一定の良好な関係を維持することは、国の独立を維持する上で必要であり、戦勝記念式典に参加してプーチン大統領の顔を立てることを忘れてはならない。旧ソ連から独立した国のリーダーにはこうしたバランス感覚が求められている。

 5月9日に先立つ3日、カザフスタン政府は、ロシア下院副議長のピョートル・トルストイ氏をはじめるとする4人のロシア下院議員を入国禁止にした。トルストイ氏らは、「ウクライナの次の問題となりうるのはカザフスタン」、「カザフスタンという国はそもそも存在しなかった」、「その独立は旧ソ連崩壊に伴うロシアからのギフト」といった発言を繰り返していた。

 ウクライナでの戦線にとどまらず、華やかな戦勝記念式典の裏側では、ロシアとロシア周辺国の間での静かな攻防も顕在化している。

※本文内容は筆者の私見に基づくものであり、所属組織の見解を示すものではありません。

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