個々のクリエーターの個性を重視した同産業では、マーケットインの発想から売れるものをつくるのではない。圧倒的な作家性(個人の想い、描きたいもの)が前提にあり、敏腕の編集者が調整するという流れが確立されており、それがシステマチックな海外コンテンツ産業やハリウッドとの垣根になっている。
マンガ大国・日本に
欠けているビジネスの視点
「素晴らしい作品づくり」においては世界最高峰の日本だが、そうして生まれた原作を、「ビジネスに変える力」と「世界に展開する力」には、弱点があると言わざるを得ない。
例えばウォルト・ディズニー・カンパニーは、作品作りと同時に映画や配信、テーマパークや不動産など、ビジネス面の開拓も非常に積極的に取り組んできた。同社が自己資本でリスクを取り、広げてきたこうした側面は、本来は国家が担って推進していくこともできる。
日本ではバンダイナムコやサンリオといった民間企業の展開が確認できるが、まだまだ世界規模だとサイズが小さい。筆者が会長を務める「ファンダム!」も、まさに「作品のビジネス化」を使命としているが、大切なのは「いかに生むか」ではなく「いかに生かすか」ということであり、ビジネスとして「どれだけ最大化するか」という観点に目を向けると、できることはまだあるのだ。
翻って同じベクトルから、「作品づくり」についても支援できることがある。「クリエーター×クリエーター」という掛け合わせだ。
例えば、『シン・ゴジラ』という映画作品については、東宝という民間企業が資本的なリスクを全て取り、庵野秀明×ゴジラという掛け合わせが実現した。また、アニメ映画の『ルックバック』は、天才的マンガ作家である藤本タツキ氏の原作を、アニメーターであり監督の押山清高氏が「掛け合わせる」ことで、素晴らしい作品に仕上がった。
このように、ビジネス面の組み立てにおいても、「クリエーターの昇華能力に、別のクリエーターと資本を預ける」という方式が定常化すれば、産業はさらに伸長するはずだ。
壮大な歴史と文化的土壌を持つ、あまりにも肥沃な日本のアニメ・マンガ業界。それを理解し、クリエーターへのリスペクトを持ちながらも、最大限にビジネスとして広げる創意工夫をすれば、まだまだ伸びしろは十分にあると言っても過言ではないのだ。
