COPDの定義
専門家たちがどのようにCOPDを定義しているのかも紹介しよう。特にCOPDのような多彩な特徴を持つ疾患群では、はじめに核心を示してからそれに説明を加える方が理解してもらいやすいかもしれない。
まず、GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)と呼ばれる国際組織による定義から始める。
GOLDは、米国国立衛生研究所(National Health Institute; NIH)に属する米国国立心肺血液研究所と世界保健機関(WHO)の共同プロジェクトとして1997年に設立され、世界中の医療および公衆衛生専門家が協力する形で始まったグローバル・イニシアチブである。COPDに関する臨床研究のエビデンスに基づいた知識の普及を通して、COPDの予防と治療の改善に取り組んでいる。日本でもGOLD日本委員会が活動している。
GOLDが昨年末に公開した年報『2025 GOLD REPORT』によれば、COPDの定義は下記の通りである(筆者日本語訳)。
「慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、持続的かつ進行性の気流閉塞を起こす気道の異常(気管支炎、細気管支炎)および/または肺胞の異常(肺気腫)による慢性の呼吸器症状(呼吸困難、咳、痰の生成および/または症状の増悪)を特徴とする異質な肺疾患の総称である」
ここで、「異質な(heterogeneous)」という意味は、ある人は細気管支の病変が強いが、別の人はより肺胞の病変(肺気腫)が目立つというように、COPDと言っても異なる病変が複雑に組み合わさっていることを表す。
歴史的には、1950年代に症候学に基づいて慢性気管支炎(British bronchitis)を提唱していた英国学派と、解剖学・病理学に基づいて肺気腫(American amphysema)を提唱していた米国学派とが協力して1960年代に概念整理が進み、慢性の気流閉塞を起こす疾患群をCOLD(chronic obstructive lung disease; 後にCOPDと改称)と総称することになったのだ。
日本呼吸器学会監修の『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2022 [第6版]』では、COPDの定義は下記の通りである。
「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入暴露することなどにより生ずる肺疾患であり、呼吸機能検査で気流閉塞を示す。気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変がさまざまな割合で複合的に関与し起こる。臨床的には徐々に進行する労作時の呼吸困難や慢性の咳・痰を示すが、これらの症状に乏しいこともある」
この定義では、COPDのリスク要因と検査についても言及している。COPDの最大のリスク要因は喫煙(タバコ、葉巻、パイプ、電子タバコを含む)であるが、社会経済的地位の低さ、幼少期の重症呼吸器感染症の既往、そして室内・戸外での空気汚染も重要である。
2001年9月11日に米国で発生した同時多発テロでツインタワー崩壊現場にいた約1万8000人の作業員とボランティアを対象とした研究では、18年までのフォローアップ期間に586人(3.3%)が呼吸機能検査(後述)で確認されたCOPDを発症しており、煙と粉塵が最もひどい最初の1〜2日に出勤した労働者が遅く出勤した労働者よりも発症リスクが約30%高かった。
