2025年12月6日(土)

家庭医の日常

2025年5月25日

COPDの診断

 診断を確定するためには、スパイロメーターという機械を用いる呼吸機能検査が必要である。

 空気を最大限吸ったところからできる限り早く一気に息を吐ききったところまでの呼気の量「努力肺活量(forced vital capacity; FVC)」とその時に最初の1秒間で吐き出した空気の量「1秒量(forced expiratory volume in 1 second; FEV1)」を測定し、その比率である「1秒率(FEV1/FVC)」が気流閉塞の目安になる。

 気管支拡張薬の吸入後でもなお1秒率が70%未満(FEV1/FVC < 0.7)であることがCOPDの診断に必要である。気管支拡張薬によっても気流閉塞が完全には回復しないこと(「非可逆性気流閉塞」と呼ぶ)がCOPDの特徴だ。

 一方、気管支喘息でも気流閉塞があるが、気管支拡張薬の吸入に反応し、通常、ベースラインからのFEV1および/またはFVCの変化が10%を超える。

 診断プロセスとしては、COPDを疑わせる症状(労作時の呼吸困難、慢性の咳や痰の生成)とリスク因子(喫煙や反復する呼吸器感染症)がある患者に呼吸機能検査を行って、FEV1/FVC < 0.7 の範囲内にある非可逆性気流閉塞を確認すれば診断が確定する。

 しかし、実際の臨床現場では、気管支喘息の病態がオーバーラップすることや、心不全、気管支拡張症、肺結核、肺がん、間質性肺炎、胃食道逆流症などがCOPDと類似の症状や検査所見を呈することもあり、悩ましい。プライマリ・ヘルス・ケアを専門とする家庭医とそれぞれの専門家とが連携して、継続したケアを提供すること(shared careと呼ぶ)が必要である。

 なお、通常、無症状の成人に対しては、呼吸機能検査を用いてCOPDがあるかないかのスクリーニングは「しない」ことが推奨されている。無症状の成人へのCOPDのスクリーニングと治療が、罹患率または死亡率を低下させたり、健康関連の生活の質を改善したりするという十分なエビデンスは見出せていないからだ。

COPDの有病率

 では世界でどのぐらいの人たちがCOPDに罹っているのだろうか。実は、この問いへの答えを探し出すのはなかなか難しい。世界各地で研究が行われているため、COPDの定義、診断基準、研究デザインなどが統一されていないことがCOPDの有病率に関する不確実性に大きく影響しているのだ。

 例えば、COPDの呼吸機能検査での基準では、欧州呼吸器学会と米国胸部学会は、1秒量(FEV1)と努力肺活量(FVC)の比が正常下限値(LLN)未満(FEV1/FVC < LLN)という基準を採用していて、GOLDが推奨する固定比率(FEV1/FVC < 0.7)とは異なる。GOLDの固定比率基準は、若年者における過少診断や高齢者における過剰診断につながる可能性があると言われている。

 そうしたなか、世界65カ国の260地域で実施した162の研究のシステマティック・レビューで、19年におけるCOPD有病率をLLN基準とGOLD基準の両方で推計した研究が22年に発表された。

 それによると、30歳〜79歳の人口でのCOPD有病率は、7.6%(LLN基準)と10.3%(GOLD基準)だった。世界全体で約2億9000万人(LLN基準)と3億9000万人(GOLD基準)に相当する。COPDがいかに重大な健康問題であるかがわかる。

 日本におけるCOPDの有病率については、04年に発表された大規模な疫学調査研究が現在でも引用される(一部発表は01年)。そこでは、日本人の40歳以上の気流閉塞の有病率は10.9%だった。


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