当時の研究倫理委員会の要請で気管支拡張薬による非可逆性気流閉塞の確認は許可されず、代わりに、気管支喘息に関連する質問を設定することで気管支喘息が疑われる人を除いている。その結果、COPDの有病率は8.6%、患者数は530万人と推定された。
一方で、厚生労働省の患者調査では、COPD患者数は38.2万人(23年)だという。大きな違いである。
患者調査は、3年に1回厚労省が実施する基幹統計調査で、全国の病院や診療所を利用する患者の属性、入院・来院時の状況、傷病名などを調査している。調査は医療施設ごとに決められた1日のみ実施される。
COPDと診断されているのに患者調査で漏れている患者も存在するかもしれないが、日本にはCOPDに罹っていても受診していない、または受診してもCOPDと診断されていない患者が何百万人もいると考えられる。
自分たちでコントロールする
T.D.さんにはCOPDを疑わせる症状はなく、喫煙のみが改善可能なリスク因子だった。3人で相談の結果、現時点では呼吸機能検査のメリットよりデメリットの方がまさるので、今は検査しない方が良いということには同意してもらった。
禁煙については、「もう40歳になるので、実はそろそろタバコはやめようと思っていたんです。電子タバコでもCOPDには効果がないということなので、先生にアドバイスしてもらいながら禁煙しようと思います」と言ってくれた。
それに関連して、将来もしCOPDになったら、どんな治療が必要で、それがどれだけ効果や害があるのかを教えてほしいという夫婦のリクエストも伝えてくれた。必要な情報を集めておいて、納得しながら、自分たちでコントロールしながら進めていきたいという夫婦の意向は頼もしい。
私は改めて喫煙の害を伝え、今後もし症状が出てきたらという仮定で、呼吸機能検査の結果によるCOPDの重症度評価、それに基づいた初期治療、治療の目標(COPDの進行を遅らせ、症状と増悪を軽減し、死亡率を低下させ、生活の質を向上させる)、予防接種、呼吸リハビリテーション、重症度に基づく段階的な薬物療法、そして(必要にならないことを願うが)長期酸素療法と手術について、今回はごく簡単に概要を話した。
「一つの疾患だけでも、まだわからないことが多いんですね」とS.D.さん。
「今わかっていることだけだと、検査や治療でどのオプションにするかの選択はなかなか難しいです」とT.D.さん。
「そうなんです。だから研究の振興が必要で、GOLDのようなグローバル・イニシャチブは重要です。ただ、トランプ政権はWHOからの脱退を通告し(1年後の26年1月22日に発効予定)、NIHの研究助成金を18.1億ドル(約2600億円)カットしました。憂慮すべき状況です」
打ち切られた助成金の内容を調べた短報が、最近出版の米国医師会雑誌『JAMA』に掲載されている。24の研究所とセンターを対象に、高齢化、がん、小児保健、糖尿病、メンタルヘルス、神経疾患といった分野に重点を置く約700件の助成金が打ち切られた(助成金受給者ではコロンビア大学が157件で最多)。打ち切りは均等ではなく、少数民族健康・健康格差研究所が最も大きな打撃を受け、同研究所の資金全体の約30%が削減された。特に、DEI(多様性、公平性、包摂性)に焦点を当てた研究プログラムは終了を求められた。
