2025年12月6日(土)

古希バックパッカー海外放浪記

2025年6月1日

大国や権力者の都合で翻弄されてきたユダヤ人の歴史

 筆者は「イスラエルの人口増加に伴うパレスチナとの軋轢を緩和するためには在外ユダヤ人のイスラエルへの新規移住の制限、米国などユダヤ人に親和的な国や地域への移住という枠組みを構築する」という構想について2人に聞くと言下に完全否定された。そして2人はユダヤ民族の歴史を語った。

 ユダヤ人はローマ帝国により国家が滅亡して以来世界各地に離散(diaspora)し、常に差別と偏見に苦しんできた。大国や時の権力者の恣意的な意向により翻弄されてきた。国家を持たないユダヤ民族は中世以来ベネチアを始めフランクフルト、ローマ、プラハなどヨーロッパ各地でユダヤ人居住区(ゲットー)への集住を強制された。

 それがナチスドイツでは占領地域での組織的なユダヤ人狩りとゲットーへの強制移住、さらにはアウシュビッツなど強制収容所での虐殺(genocide)というホローコーストに発展したと指摘した。ちなみに筆者は日中戦争で日本軍の支配下にあった上海でも日本軍が指定した居住区にナチスドイツから逃れてきたユダヤ人難民を強制移住させたことを思い出した。

バルフォア宣言に代表される大国のご都合主義

 大国のご都合主義の事例として第一次世界大戦中の英国外相によるバルフォア宣言を挙げた。英国はバルフォア宣言によりパレスチナにユダヤ人国家建設を約束する代わりにユダヤ人社会の影響力により米国を第一次世界大戦に参戦させて大戦に勝利した。同時に英国はオスマントルコの支配下にあったアラブ人に対しても戦争協力の見返りに大戦後の独立を保証した。

 英国によるユダヤ人とアラブ人に対する二股公約となるバルフォア宣言はユダヤ人にとり痛切な教訓になったとのこと。すなわち大国や権力者にユダヤ人の運命を託すことの危うさをユダヤ人は学んだという。

トランプに頼ることの危険性

 トランプ大統領がイスラエルを強力に支持していることで、イスラエルがハマスやヒスボラとの闘いを有利に展開していることについて2人は評価した。しかし、仮にトランプ大統領が米国の親ユダヤ的な地域にユダヤ民族の安住の地を設定して、自治権を与えると約束したとしてもユダヤ人は断固として拒否するという。

 米国の大統領が代わり、自治地区周辺の米国民衆の意識が変われば容易に自治権を制限され、さらには自治権そのものが剥奪される可能性もある。権力者や民衆の対ユダヤ人感情が容易に変化することは欧州やロシアのユダヤ人迫害の歴史が証明していると指摘した。近年の事例としてソ連邦崩壊後の政治経済の混乱でロシア人の不満が高まり、同時にロシア正教が復活してロシア民族主義が台頭すると、ロシア人のユダヤ人迫害が始まり大量の旧ソ連在住ユダヤ人がイスラエルに移住したことを挙げた。


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