2025年12月5日(金)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2025年5月30日

 PBSが制作するのはニュース番組だけではない。有名な子供向けの教育番組「セサミストリート」もその一つである。エルモやビッグバードといったキャラクターが子供に読み書きや計算などを教えるこの番組は、69年の初放送以来、世界各地で広く視聴され、50周年を迎えた2019年には4500話に達している。

 公共放送に対する補助金を廃止する話が出たのはこれが最初ではない。12年の大統領選において共和党のロムニー候補が、公共放送への補助金の削減に言及したことがあった。これに対して民主党のオバマ候補は、「エルモもビッグバードも気を付けた方がいい」と巧みに反応し、好印象を与えた。

 この時ロムニーは、財政再建を目指す中でそのように発言しただけで、公共放送の中身を敵視したわけではなかった。その証拠に「ビッグバードは好きだ」と語っている。今回は財政再建ではなく、公共放送のDEI(多様性、公平性、包摂性)を推進する姿勢が問われているのである。

小委員会で〝トランプ派〟から激しく追及

 公共放送を殊更敵視した今回の大統領令が出される兆候はいくつもあった。中でもインパクトが大きかったのが、3月26日の連邦議会での公聴会であった。NPRのキャサリン・マーとPBSのポーラ・カーガーの2人の最高経営責任者(CEO)が下院の行政監視小委員会に出頭した。

 「反米メディア:NPRとPBSの責任を追及する」と名付けられたこの小委員会の委員長は、マージョリー・テイラー・グリーン下院議員であった。彼女は、20年の選挙でのトランプの勝利を主張し、バイデン大統領の弾劾を訴えたトランプ支持者であり、同時多発テロが陰謀によるものとする陰謀論者としても有名である。マーとカーガーにとってこの公聴会が針の筵(むしろ)となるのは最初からわかりきっていた。

 グリーンはまず、「NPRとPBSが、ほとんどが金持ちの白人で都会に住んでリベラルで急進的で、田舎のアメリカ人を見下す狭い範囲の視聴者のための過激な左翼の残響室化しつつある」と自説を述べて批判した。NPRは「共産主義のアジェンダ」を持っているとさえ主張した。

 マーは、融和的態度をとることで何とか乗り切ろうとした。バイデン大統領の息子ハンター・バイデンのパソコンの中から疑惑のメールが大量に見つかったラップトップ疑惑の報道の仕方や、過去にトランプのことを「人種差別主義者」と呼んだことに対する反省を口にしたが、厳しい追及が緩むことはなかった。少数派の民主党の議員の援護射撃もむなしかった。


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