2025年6月17日(火)

田部康喜のTV読本

2025年5月28日

 「賢者の投資家」と呼ばれ、バークシャー・ハサウェイを最高経営責任者(CEO)として率いてきたウォーレン・バフェット氏(94歳)が、CEOを2026年6月1日付で引退すると発表した。

第一線から退くことを決めたウォーレン・バフェット氏(AP/アフロ)

 世界のメディアはバフェット氏の尊称「賢者の投資家」が引退する方向にあることをニュースで伝えた。バークシャー・ハサウェイが運用している上場株式は3月末で2637億ドル(約39兆円)にのぼる。

 日本のテレビ、新聞報道はバフェット氏の尊称を冠として、同社の投資の方向性がどのようになるのか、果たしてバフェット氏が率いてきたような運用実績をあげることができるかどうかに焦点を当てている。これは正解でもあり誤りでもある。

 ウォーレン・バフェット氏とは何者か。実は投資家としてばかりではなく、実務家つまり企業の運営に深くかかわって危機から立ち直らせている。知られざる彼の軌跡をたどってみたい。「公式伝記」とされる『スノーボール改訂新装版 ウォーレン・バフェット伝』上・中・下kindle合本(アリス・シュローダー著、日本経済新聞社出版)を参照した。

スノーボール 上 改訂新版: ウォーレン・バフェット伝
アリス シュローダー (著), 伏見 威蕃 (翻訳)
¥1100 税込

バフェットを手本とする孫正義

 本の著者であるシュローダー氏はもともと生損保などのアナリストである。バフェット氏が伝記の執筆者に指名した。この書籍は、彼女の初のノンフィクションながらベストセラーになった。金融知識に富んだシュローダー氏は、バフェット本人への5年に及ぶインタビューの積み重ねと、家族や米国の金融当局のトップらのインタビューを丁寧に行っている。

 バフェット氏は彼女に伝記を依頼するにあたって「不真面目なことであろうと、食い違いがあれば恰好悪い方の話を採用してくれ」と率直に述べている。最近の伝記の中では、ピューリッツアー賞を受賞したジャーナリストのウォールター・アイザックソン氏による『スティーブ・ジョブズ』上・下巻(講談社)に匹敵する。

 バラク・オバマ氏とヒラリー・クリントン氏が大統領選を闘った時に、二人とも就任したあかつきにはバフェット氏を財務長官に迎えると語っていた。バフェット氏は二人に共感を抱いていたために、オバマ氏への肩入れからクリントン氏の立候補によって中立の立場になった。このためか、オバマ政権下では経済分野のアドバイザーの地位にとどまって、政策に影響をあたえる立場にはならなかった。

 バフェット氏がCEOを退く意向を明らかにした10日余り後、トランプ大統領がアラブ首長国連邦(UAE)を訪問して経済協力に合意した同行団の中に、エヌビディアCEOらとともに、ソフトバンクグループ代表の孫正義氏の姿があった。孫氏はすでに米企業と共同の形で、米国内でAI分野を中心として70兆円の投資をすることを明らかにしている。


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