現場では海保が必死に対処
領空侵犯に対する処置は、自衛隊法84条に基づき、自衛隊の部隊が「警察権」に基づいて実施しており、今回のケースで防衛省は「航空自衛隊南西航空方面隊(那覇)の戦闘機を緊急発進させ、対応した」と発表している。
しかし実際は、那覇基地から尖閣諸島までは約410キロメートルもあり、戦闘機が緊急発進しても30分はかかるため、同諸島周辺での領空侵犯には対応できていないのが実情だ。このため現場では、24時間体制で懸命に警戒監視にあたる海保の巡視船が、侵犯機のヘリと海警船に対し、無線で警告し、飛行の即時中止を求めることしかできなかった。
海保に対領空侵犯措置の任務を
海保関係者によると、尖閣諸島の領海内で中国がヘリを発進させれば、直ちに重大な領空侵犯となるため、今後はヘリの領空侵犯が予測されるような場合には、ヘリの発進に必要な風を利用させないよう風上に向かう海警船の進路を妨害したり、場合によっては放水銃を使って発進を阻止したりすることも想定しているという。
さらに尖閣警備にあたって、海保は米海軍などの支援を受け、小型無人機が領空侵犯した場合を想定し、無人機が使用する周波数帯に強い電波を照射する「ジャミング」と呼ばれる電波妨害で飛行を阻止することも想定している。
こうした海保の想定を踏まえれば、自衛隊法と同様に、海上保安庁法にも警察権に基づく対領空侵犯措置の任務を明記し、海警船のヘリが領空侵犯した場合には、ヘリ搭載の巡視船から即座にヘリを発進させ、強い警告を発するとともに、退去誘導できる権限を付与する必要がある。政府は法改正を含め、違法行為をエスカレートさせる中国に対し、実効力のある対応をとらなければならない。
中国主導で「国際調停院」設立
領空侵犯対処という防衛警備の課題に続き、外交的対応を急がなければならないニュースが伝えられた。中国が国家間の紛争を調停で解決する「国際調停院」を香港に設立し、今年末から業務を開始するという内容で、設立署名式は5月30日に開かれ、アジアやアフリカ、中南米などから32カ国が参加したという。
東シナ海や南シナ海で一方的に領土問題を引き起こしている中国が、国家間のトラブルの調停に乗り出すなど冗談としか思えないが、設立直後に中国が上程するとみられる案件は、尖閣諸島と南シナ海の領有権問題であることは間違いない。
設立の背景にあるのは、国連機関の国際仲裁裁判所が16年、中国が南シナ海全域に主権がおよぶと主張する「九段線」の法的かつ歴史的根拠を全否定した判決を下したのに対し、中国は判決を「紙くず」と言い放って無視するなど、戦後の国際紛争解決機関に対する強い不満を抱えているからだ。
